i-GIP 2022 KANTO メンバーインタビュー

inochi WAKAZO Projectの活動のひとつであるinochi Gakusei Innovators’ Program(通称i-GIP)は、関東、北陸、関西、四国、九州の5つの地域(※ただし47都道府県を網羅している)で行われており、今年度の関東メンバーには慶大の学生が文系理系問わず(医学部、薬学部、文学部、商学部、総合政策学部)所属していた。i-GIP KANTO Forum 2022を終えた後日、活動に参加した経緯や活動に取り組んで感じたことについて塾生メンバー数人に話を聞いた。話を聞いたのは、栁蒼太さん(総1)、渡辺倖成さん(医2)、原田駿さん(医5)の3人だ。

栁蒼太さん

──inochi WAKAZO Projectの活動に参加しようと思ったきっかけを教えてください。

高校生の時に参加していたこともあり、運営に携わってみたいという好奇心が1番大きかったです。また、ヘルスケアは誰にとっても、人が人でいる限り必要なことではあるので、その分野に少しでも携わることができたら面白いなという好奇心もありました。

──運営に携わってみたいというのはどのようなところから来たのですか。

何十人もの大学生、そして地域を跨げば何百人もの中高生がいるような団体をどのように取り仕切っているのかという部分に興味がありました。さらに、中高生が考えているアイデアを均一化するのではなくひとつひとつ生かしながら考えなければいけないというところがあり、全チームを同じ方向に誘導すればいいわけではないというところが、一般的なイベントや他の団体とは違って運営しがいがあるのではないかと感じました。

──実際に運営側になり、高校時代とは逆側の立場としてやってみてどのように感じましたか。

20チームあった中で、同じ時期から始めていても全然違うアイデアばかりでしたし、中高生も大学生もいろいろな方がいる中で関わり方も全員違うし、シンプルにそれは面白いなと思いました。高校生で参加した時とは全然違う感覚でした。

──高校生として参加していた時は、どのような感覚だったのですか。

自分が参加した2020年は、コロナの影響でオフラインで1回もプログラムをしたことがなく、全員で集まる機会もほとんどなかったんです。そのため自分のチームのことしかよく知らなかったですし、自分のチームで精一杯だったので、他のチームを深く見るということができませんでした。でも今回は視野を広く見れたと思います。そして、各チームさまざまに考えていてすごいなというのは強く感じました。

活動中の栁さん

──学生という立場で活動に取り組む意義を教えてください。

ヘルスケアの団体なので、もちろん誰かを救うみたいなところにはやっぱり1番重きを置くべきだし、置いていたつもりではありました。ただ、課題解決というものは、学校で授業やプログラムになるくらい教育的な要素を非常に含んでいると思っていて、今回に関してはそちらの方に注目していました。ですから、中高生がi-GIPという4ヶ月間のプログラムでどうやって成長するのかというところには関心がありましたし、力を入れて考えました。

──具体的にこのように成長してほしいというものはありましたか。あるいはそのために何をしようと考えていましたか。

課題解決のやり方は大体決まっていると思うんです。課題を見つけて、当事者の方の意識を知って、ペルソナを設定してみたいな。逆に知らなかったら何もできないので、まずそういう課題解決に関するノウハウみたいなものをきちんと知ってもらいたかったです。さらに、インタビューの重要性というのを伝えられたらいいなと思っていました。文字になっている人の状況は正直あまり意味がないというのは高校生の時に感じたので、文献調査も大事だけど、結局は人を相手にしているものなのできちんと聞きにいって調べよう、というのは勉強してほしかったことです。自分が高校生の時はそういうことをきちんと教えてもらったので、それを意識して課題解決について自分の見ていたチームの高校生には話していました。トライ・アンド・エラーを繰り返しながらいろいろな人のユーザー状況を考えるというのは、もちろんi-GIPというプログラムをやる上でも大事でしたし、自分が大学入試でAOに取り組んだ経験上も大事だと実感していました。AOの場合、出題者の意図を考えなければならないところでそれが必要でした。ですから、人を相手にしているということを意識できるように、意識してもらえるようにしたかったというのはあります。

──このような活動を経て、自分自身に成長や変化を感じるところはありますか。

もしi-GIPがなかったら、そもそも心不全やヘルスケアをテーマにして活動しようと絶対に思わなかったですし、そういったことに考えを巡らせることもなかったと思うので、それができたところですかね。一般的に健康のことを考えるようになるのってもっと後になってからだと思うんです。40歳過ぎた時にようやく気付いてやばいなって。この団体に入り、そうなる前の段階でしっかりと第三者の立場で、自分や他人の体のことを考え、ひいてはヘルスケアというケアまで含めた行いをも考える貴重な機会を得られました。また、健康やヘルスケアへの意識が生まれたと思います。医学部に通っていない以上、将来お医者さんになるわけではないし、ずっと患者さんの立場になり続けるのだろうと思ってはいます。しかし、患者さんの立場だけでなくいろいろな立場から考えられるようになれたのではないかと思います。例えば、総合政策学部的にはどうなのだろうかというように、社会系の学部からできるアプローチについて考えるきっかけになったと思います。

i-GIP KANTO Forum 2022の様子①

渡辺倖成さん

──4ヶ月間中高生と一緒にやってきて感じたことを教えてください。

4ヶ月間メンターをするとこちらが中高生に教えているというだけではなく、例えばチームワークだったり、人の命を救う熱意とか、こちらが刺激を受けるということが多々ありました。これはまさに慶應義塾が理念とする半学半教の精神で、中高生ならではのパワーを強く感じました。メンターをやっていたわけですが、決して僕はチームの主役で方向性を決めていたっていうわけではなくて、彼女たち自身が主体的かつ積極的にヒアリングやインタビューを行ったり、課題設定を行ったり、プロトタイプを作ったりして、そういう姿を見てきて、活動前に比べてとても彼女たちが成長した姿を見れたと感じています。

──優勝した「サモエドはもふもふ」について、彼女たちのどのようなところが優勝に直結したと思いますか。(※渡辺さんは「サモエドはもふもふ」のメンターを務めていた。)

やはり、自分達が積極的にやっているというところが大きいと思います。人の指示にただ従うのではなく、その時点で自分たちがするべきことをしっかり把握していて、それを実行できる能力があったのだと思います。例えば、途中で方向転換して、ペルソナをお年寄りに絞ったのですが、巣鴨にお年寄りが多いということを調べてインタビューやヒアリングに行くことでより正確なリサーチができたと思います。このように自分たちで主体的に取り組んでいて、かつ、i-GIP KANTO Forumで優勝したいというのも、彼女たちの大きな思いだったので、それが推進力になったと思います。

──方向転換する前はどのような感じだったのですか。

方向転換する前は、主に服薬管理に注目していました。最初に出た案は服薬管理アプリを作ることでしたが、既に多く存在するものとどのように差別化するかで行き詰まり、次に天秤を使った可視化を考えましたが、こちらも上手くいきませんでした。

活動中の渡辺さん

──ヘルスケア課題解決というと言葉自体に堅い印象を受けると思うのですが、学生の立場からそれに取り組むことについてどのように考えていますか。

課題解決という言葉は難しく聞こえますけど、実際にインタビューとかをしていると、その人が抱えている課題だったり、困っていることとかがわかるので、やるべきことは自ずと見えてきます。そして、本当に難しい問題というのはもちろん学生の立場で解決するのには無理があり、経験・専門知識が豊富な大人がいろいろ考えている訳ですけど、まだ学生が介入できる余地がある部分もあると思っていて、その部分に注目して学生が社会を変えるというのがまさに本団体の理念です。今回のフォーラムを見ていても、学生らしい面白い発想をしているものがたくさんあって、そして学生は比較的時間がある時期だと思うので、この段階からヘルスケア課題というものに取り組むのには意義があると思います。

──渡辺さん自身がヘルスケア課題解決をやりたいと思ったのは、どのようなところから来たのですか。

僕も医学部生として医学を学んでいる途中ではあるのですが、この時期にヘルスケアというものについて真剣に考えてみたいと思ったので、活動に参加しました。現在は2年生で基礎医学を学んでいる段階なので、机で勉強しているだけではあまり実感が湧かず、自分たちが将来相対する患者に向き合ってみたいと思ったからです。また、この団体の理念である「若者の力でいのちを守る」のように、少しでも自分たちが考えたアイデアが社会の役に立つようなものができたらなと考えてこの活動に参加しました。

──実際にこの活動をやってみて、ご自身の中での変化はありましたか。

ペルソナについていろいろ調べたりインタビューなどを通して話をすることで、それぞれが有する生活上の問題などただ机で勉強しているだけではわからない、患者が抱えている具体的な問題が見えてきたと思います。なかなか医学部生ではないと医学について考えることは少ないと思うのですが、命というのは当然すべての人に関係することであり、一度でも命について真剣に考えるという経験をこの団体に入ってすることができたのは、とても有意義だと思いました。比較的時間の多い学生の段階でヘルスケアについてきちんと扱うことができたということ、そして、中高生に対してメンターという形でついて活動するので、中高生の成長も実感できるし、そのフレッシュなアイデアにも触れられるのでとてもいい経験ができたと思います。

i-GIP KANTO Forum 2022の様子②

 

原田駿さん

──4ヶ月間中高生とともに活動された中で感じたことやi-GIP KANTO Forumを終えて感じていることを教えてください。

まず1つあるのは、中高生の熱意に非常に感動したということです。僕のチームは中学生で、他に部活だったり、勉強だったり、はたまた遊びだったり、やりたいことがたくさんあると思うんです。そういうことに時間を使うという選択肢ももちろんあったと思うんですけど、そのたくさんの選択肢の中、i-GIPに4ヶ月あるいはそれ以上の時間を使うと決めてしっかりとプログラムの最後まで走り切ってくれたという熱意、やる気、責任感にすごく感激しました。僕らのチームは、何度もミーティングをしたり、大人の前でプレゼンを経験したり、実証実験を行ったりと非常に大変だったと思います。特にフォーラム前の最後の1週間は毎日ミーティングしましたし、実際に顔合わせることもありました。今回のフォーラムでの発表は、たくさんの放課後の時間を使って作り上げたものだったので、本当にその熱意に感激しました。また、このようなプログラムを走り切った後で達成感がありましたし、中高生にとっても良い経験になったのかなと思います。実際に私が担当していた子のうちの1人が、企業と組んで実証実験を行うのが初めての経験で、中学生でもこういうことができるのが本当によかった、と言ってくれて、その言葉を聞いてとても嬉しかったのを覚えています。私自身も中学生とメンタリングしていく上ですごくたくさんのことを学べて、実行に移すことができたかなと思います。

──メンタリングというのは具体的にどのようなことされたのですか。

メンタリングの役割としてはいくつかあると思うんですけど、まずは中高生の熱意を引き出すこと。中高生のこんなことがしたいという声を組み取って、ここに大学生が手助けなり、あるいは時にはリーダーとなって中高生を引っ張っていき、中高生のこれがしたいという思いを実現させていくことが1つの大きな役割かなと思っています。

──メンタリングは難しそうに聞こえるのですが、どうやってできるようになったのですか。

僕はこのプロジェクトに参加するのが2年目ということもあって、去年の蓄積も勿論あったんですけど、その中で1番学んだのはやっぱり相手の視点に立つ、他者にとって価値があると思えるようなものを出していくことだと考えています。中高生はこういったプログラムに参加するのは初めての人がほとんどであると思うので、アイデアが独りよがりのものになっていたり、あるいは本当にそれは他者のためになっているのかという視点がやや足りないものも見られたりすることがありました。そういう時に実際にこれを他者が使っているところを想像してみて、といった他者からの視点にこだわってメンタリングすることで、良い成果が得られたと思います。

活動中の原田さん

──学生という立場でヘルスケア課題に取り組む意義を教えてください。

学生という立場でヘルスケア課題に取り組む意義は、僕としては大きく2つあると考えていまして、1つに視野が広がることがあると思います。僕はこのプログラムに参加したのが大学4年生の時で、それまでは医学部に行ったらどこかの科の医者になる、という程度の将来像しか見えていませんでした。それは高校生の時からもちろんそうですし、大学の低学年の時もあまりそれ以上の知識を持っているというわけではありませんでした。ですが、こういったプログラムに参加したことで、自分が将来どのようなことをしている医師になりたいのかというのを掴むことができました。具体的には、私は将来臨床現場を経験していく中で、現場で感じた課題をどんどん解決して実世界に還元していくようなことがしたいなという、将来これをしたいという思いを2年間活動していくうちに掴むことができました。また、実際それをやられている、すなわち、私が目標としている何人もの医師の方に出会えたことも大きいです。もう1つは、学生のうちから他者の立場に立って物事を考える、他者に価値を提供するということを考えることができるのが大きな意義だと思います。他者に価値を提供するというのは、社会に出て求められる能力です。この能力を学生のうちに実践できるというのが、学生の立場からヘルスケア課題に取り組む2つ目の大きな意義であると考えています。

──一緒に取り組んだ中学生にそのような意義を感じてもらうためにどのような伝え方をしていたのでしょうか。

このプログラムを通じて中高生に感じてほしいことはいくつかあるんですけど、大きな1つとして他者に価値を提供するという観点で言えば、常に相手のことを考えるということを行動なり、言葉なりで伝えていけたのかなと思います。独りよがりのアイデアではなくて、これは本当に他の人のためになるのかというのを、実証実験を行うことで実際に対象となる人がどう感じるのかといった生の声をしっかりと集めようといったことを教えてきました。また、これはこういうプログラムに限らないと思うんですけど、何かに熱中することの大切さを身をもって教えられたのかなと思います。4ヶ月という決して短くはない期間をi-GIPというプログラムに熱中して、フォーラムの前には毎日のようにミーティングなり、実際に手を動かすなりしてプログラムに全力で取り組むという中学生の姿勢を見て、私も4ヶ月間走り切ることができました。何かに没頭する大切さを一緒に共有できたのは良かったかなと思います。

──4ヶ月間熱中してやり続けるために工夫していたことはありますか。

私のチームは非常に熱意のある子たちで、途中で何か大きなトラブルはなかったのですが、やはり意識していた点としては、どのようなことをすればこの子たちのやる気をさらに引き出すことができるのかというところです。具体的には、僕のチームの中学生の1人が、みんなの前で発表することが楽しいし、大好きだと言っていたので、それならば発表する機会をどんどんセッティングしてあげようという思いがありましたし、また別の子はいろいろな人と話すのが好きだということを言っていたので、大学生だったり企業の方だったり、あるいは医師の方だったりとのヒアリングの機会をセッティングしてたくさん話してもらったりというように、中学生が何をしたいのかというのは常に考えていました。それを行うことで僕たちのチームのアイデアの質が間違いなく上がっていくと思っていたので、そういったことには精力的に取り組みました。

──最後に、こういった活動に取り組んでいる学生は多くないと思うのですが、塾生に対してメッセージがあればお願いします。

ヘルスケアというのは、医学部生だけで解決できるような単純な問題ではなくて、例えば理工学部、法学部、文学部、ビジネスにしていくのだったら経済だったり幅広い分野の人々が集まってようやく解決できるかどうかという分野だと思うんです。ですから、ヘルスケアは医学部だけのものだろうと思うのではなく、あらゆる学部の、いろいろなバックグランドや考え方を持った人がやっていくことで、ヘルスケアに限らず多くの分野での課題がどんどん解決されていってQOLだったり社会全体の質の向上に繋がるのかなと思います。また、他者の立場に立って考える、他者に価値を提供していくということはこれも医学部だけではなくて全員が考えるべきことですし、みんなが考えていい問題だと思います。そういったことが実践的に学べるのもこのinochi WAKAZO Projectの強みだと考えています。

(後藤ひなた)

前編はこちら