2021年5月に発足した「早慶和書電子化推進コンソーシアム」。その一環として、今年10月から、1年半の期間限定で国内出版社5社(岩波書店、講談社、光文社、裳華房及び日本評論社)による電子書籍コンテンツの提供事業が開始された。

プロジェクトのキービジュアル(写真=提供)

この慶應義塾大学メディアセンター本部にとっての新たな試みと今後の大学図書館のあり方について、慶應義塾大学メディアセンター本部の酒見佳世さんと島田貴史さんに話を聞いた。

 

今回の電子書籍コンテンツの提供はどういった経緯で決定したのでしょうか。

そもそもの発端として、今回の事業開始の前に2019年9月から早慶両校は、日本初の試みとなる図書館システム共同運用を行ってきました。それを基盤として、「早慶図書館でさらに何か出来ないか」ということで、今回のプロジェクトが始まりました。

電子書籍コンテンツの利用方法を教えてください。

いくつか方法はあるのですが、

➀メディアセンターWEBサイトトップページ→メニューの「データベースナビ」をクリック→「KinoDen」(紀伊國屋書店データベース)で検索

電子書籍利用時に使われるデータベース「KinoDen」(写真=提供)

➁KOSMOSで書籍タイトルを検索→検索結果に「オンラインで利用可」という表示がされている本ならば電子書籍が利用可能なので、そこから直接閲覧

KOSMOS検索画面(写真=提供)

この2通りです。KOSMOSの検索後にバナー広告も出しており、そちらをクリックするとデータベースナビにリンクします。閲覧方法は普通の電子書籍と変わりません。どんな本が電子書籍で閲覧できるのか知りたい場合には、プロジェクトのWEBサイトにある提供タイトル一覧を見て頂くのが良いかと思います。

 

電子書籍の動きとコロナ禍に関連はあるのでしょうか。

慶應義塾では元々コロナ禍以前から電子書籍の購入についてはさまざまな取組みが進められていました。ですが、コロナ禍によってそもそも図書館に来て資料を見てもらえないという状況に置かれたことで電子書籍の必要性が顕在化しました。コロナ禍というのは確かに「動くきっかけ」にはなったと思います。

 

電子書籍のメリットにはどういったものがあるのでしょうか。

時間や場所の制約が無いという点が挙げられると思います。これまで電子書籍に触れたことが無かった学生が、コロナ禍をきっかけにして授業等で電子資料を閲覧する機会が増えたように思います。その中で、「電子書籍、意外と良いかも?」と思ってくれたのではないでしょうか。

図書館側の観点としては、書架不足を解消できるという点があります。図書館は本の保存も一つの役割として担っているため、増え続ける本による書架不足には常に悩まされています。しかし、電子書籍は書架には置かない蔵書になるので、そういった面では図書館側の問題を一つ解消できるのではないかなと思います。これは電子資料一般に共通することですが、本の劣化も防げますね。

 

逆に電子書籍のデメリットはあるのでしょうか。

先ほど書架不足について触れましたが、裏を返すと書架に目に見える形で新しい本を置くことができなくなってしまいます。また、同時アクセス数やダウンロード可能範囲が限られるなど、電子書籍特有の使い勝手の悪さもあります。ウェブの記事なら同時に何人もアクセスすることはできますし、現物の本なら著作権法の範囲内であればコピーを取ることができますから。

紙にも電子にも、それぞれ良い点・悪い点もあるので、お互い組み合わせて補っていければ良いなと思います。現時点で、紙と電子が同じ条件で比較できる地点まで来ていないからこその今回の事業なのです。

 

プロジェクトを通した今後のメディアセンタ―の展望を教えてください。

利用者の皆さんの声を沢山聞きたいですね。電子書籍を提供してくれる出版社側も利用者の意見を知りたがっていますから、出版社と利用者の間に立つ立場としてプラットフォーマーや出版社に伝えていきたいです。利用していくうちに、もしかすると「やはり電子書籍は必要ない」という結論になるかもしれません。あくまで今は実験段階ですからそういった意見も重要です。図書館側の希望としては提供タイトルを増やしたいですね。

今は早慶限定のプロジェクトですが、プラットフォーマーとしてはやはり他大学にも広げていきたいようです。そこでまずは早慶が突破口となっている形ですね。試用段階の今、出版社側には電子化してもらいたい書籍のリクエストは伝えやすくなっています。紙の本が売れなくなることを危惧している出版社側にも、「そのような心配はいらなかった」と思ってもらえるようにも沢山意見や希望を学生の皆さんからいただきたいです。

 

最後に利用者へのメッセージをお願いします。

電子化が進むにつれて相対的に紙の本の提供が減り、そうなると図書館のあり方は変わるかも知れませんが、それをそこまで暗く捉えてはいません。世の中の状況や利用者の動向に応じて変えていくことが大事かなと思います。学生の皆さんには是非、図書館の電子書籍コンテンツを積極的に利用して頂きたいです。光文社古典新訳文庫とかを読破する人、出てこないかな(笑)。

約1200点の電子書籍コンテンツが提供されるこのプロジェクト。是非一度この機会に利用してみてはどうだろうか。

 

(金子莉歩)