最近、若い世代から競馬が注目を集めている。白毛のアイドルホースが活躍し、競走馬を擬人化したアニメやスマホアプリが人気を集めた。
しかし若者は競馬に興味を持つが、競馬場に行く人は少ない。それには、競馬場には「汚い」印象があるからではないだろうか。一例を挙げると、ポイ捨てが横行し、床一面にゴミが散乱しているような汚い環境だ。若者たちは競馬場に訪れることなく、このような印象を持つ。
では実情はどうか。今回は競馬場の清掃に迫ろう。また大学生の多くは、在学中に二十歳になる。競馬場に来場してみたい、馬券を購入してみたいと思う人がいるだろう。本記事を通して、競馬場の清掃について知ろう。
そこで、JRAファシリティーズ株式会社(以下、JRAF)の岡部氏と須山氏に取材を行った。JRAFは競馬場における観戦環境の維持を行う会社だ。今回は、中山競馬場で行う清掃業務を取材した。
競馬場を変える清掃の取り組み
そもそも競馬場の清掃業務とは何か。清掃場所は、6階建ての施設であるスタンド、床の材質が違う指定席エリア、屋外観戦エリア、競馬場外の道路など。日本中央競馬会(以下、JRA)の取り組みに沿って、競馬場内外のさまざまな場所を清掃している。また床の材質の違いや飲食エリアの併設によって、清掃のやり方を変えている。
JRAの取り組みはさまざまあるが、今回は以下の2点に注目する。それは、クリーンキャンペーンとホスピタリティだ。
まずクリーンキャンペーンを紹介しよう。競馬場内のポイ捨てといえば、ゴミを座席周辺に置く行為が想像できる。座席周辺にゴミが捨てられると、観戦環境が悪くなる。最悪の場合、風で運ばれたゴミがコースに入ることで、レース施行に支障が出てしまう。
しかし実際に屋外観戦席を歩くと、ポイ捨てされたゴミは少ない。その理由の1つとしてクリーンキャンペーンの存在が挙げられるのだ。これは、清掃員自らが客席に出向き、ゴミを回収する取り組みだ。横長い競馬場のスタンド席に、「両端から10人ずつ配備し、左右からスタンド席に座るお客様の下にお伺いしてゴミを回収する」と岡部氏は説明する。場内映像と場内放送、清掃員の呼びかけを駆使して、迅速かつ計画的にゴミを回収している。
クリーンキャンペーンがもたらす効果
クリーンキャンペーンは場内美化の効果を2つ持っている。1つは、効率的なゴミの回収だ。迅速かつ計画的な回収を行うことで、ポイ捨てされたごみもポイ捨てされ得るゴミも同時に片付けることが可能だ。つまり、1回の清掃でスタンド席のゴミを集めることができる。
もう1つは、場内マナーの健全化だ。このキャンペーンを行い続けることで、「スタンド席にゴミをポイ捨てしてはいけない」と意識される。岡部氏は、「ごみを捨てる意識が10年、20年の間に変わってきている。継続は力なりです。」と述べた。
JRAの意識改革から生まれたホスピタリティ
JRAが行う取り組みの2点目として、彼らのホスピタリティを紹介しよう。JRAは意識改革を行い、数十年前とは異なるサービスを提供している。多くの場面で垣間見られるものだが、まずはクリーンキャンペーンにおける例を挙げよう。
清掃員はゴミを回収する際に、「ご協力ありがとうございました」と言う。回収に出向く側であるにも関わらず、お客様の協力に感謝する姿勢を取る。また子供に対しては、腰を低くし子供の目線に立つ。そして「ありがとうね」や「えらいね」と褒めてあげる。清掃員は、お客様の捨てたいという意思表示を見逃さないので、無視されることはない。
また、お客様の観戦の邪魔をしないよう、レースの合間に素早くゴミを回収する。お客様への配慮を欠かさない。そして岡部氏は自らの口癖を紹介した。それは「誰のための清掃か」である。独りよがりな清掃にせず、お客様の為の清掃を追求している。
次に清掃員に注目しよう。現場で清掃する方々は、競馬開催に関わる質問に答えることができる。「清掃員の業務は清掃だが、意識改革を行ったことで、お客様の質問に胸を張って答えるようになった」と岡部氏は言う。JRAFも清掃員も「ワンチームとして行動している」と須山氏は言う。お客様やレースを考え、自らがされて嬉しいことを実践する。そして個人であれ、家族であれ、「また来たい競馬場」を作り上げる努力を追求しているという。
進化し続ける競馬場
私は久々に中山競馬場に訪れ、クリーンキャンペーンの様子やJRAのホスピタリティを見ることができた。彼らの取り組みによって、競馬場にはゴミが少なく、長い取り組みによってポイ捨てが減少している。清掃員の方々の活動やJRAの企画の賜物である。
しかしポイ捨て行為はゼロではない。それは現実であろう。だから清掃員がゴミを迅速に回収する努力をしている。そして須山氏は、「競馬場はポイ捨てゴミがない綺麗な環境だと、ぜひご来場し体験していただきたい」と言う。
競馬場に訪れることなく「汚い」イメージを抱いてはならない。それは勝手な偏見なのかもしれない。実際に競馬場に足を運び、清掃員の方々の活動やJRAの企画、ホスピタリティに触れることから始めてみてはどうか。
(大林龍平)