慶大全塾協議会は14日、三田キャンパスで臨時会を開き、2023年度塾生代表選挙立候補者No.1の矢部力也氏に対し、全塾協議会選挙規則(以下言及する条文はすべて選挙規則)第32条に基づく立候補取り消しの処分を下した。矢部氏の「物品配布」と「飲食店内における商品の提供」が第31条の定める「票の買収」に該当すると全会一致で認定した。第32条に基づく立候補取り消しは過半数の賛成を得て議決された。塾生代表選挙において立候補取り消しは初めて。議決に伴い、矢部氏への投票は14日15時よりできなくなっている。
臨時会は矢部氏が「団体への物品の配布」を行ったとの監査人の報告を受けて開催された。14日0時からはすでに投票が開始していた。ZOOMにより全塾生が視聴できる形の開催だった。臨時会終了後、全塾生が発言できる記者会見があった。
投票期間の開催であるため、塾生代表の山田健太氏は他の議員の判断を追従して承認するという異例の対応を取った。通常の議会では、塾生代表は議員の一人として発言し、議決の承認・拒否権をもっている。「自分自身も候補者でありこの件に関与するのは適切なのか」という声を受け、他の議員の判断に「追従する」と議論の前に表明した。
塾生代表が提出した「2023年度塾生代表選挙に関する議案」によると、矢部力也氏から全塾協議会の所属団体への物品授受は選挙期間中に2件あった。矢部氏によると、ヒアリングのお礼としてカフェでのコーヒー代を支払い、菓子類を提供したという。このうち1団体は湘南学祭実行委員会であることが明らかになっている。12日に湘南学祭実行委員会は、矢部氏から差し入れとして菓子類を受け取っていたことを七夕祭のHP上で公表している。
臨時会では第32条に基づき、矢部氏に弁明の機会が与えられた。矢部氏は「塾生にご心配とご迷惑、改めてお詫び申し上げます」と述べたうえで、自身の行為は「票の買収」に当たらないと主張した。矢部氏は主張の根拠として、選挙規約に何が票の買収に当たるかの規定がないことをあげた。公職選挙法139条を引き合いに出し、提供した物品や飲食物は「湯茶及びこれに伴い通常用いられる程度の菓子」に該当するとした上で、公職選挙法で適法な行為を塾生代表選挙では規則違反とすることに妥当性がないと主張した。また、支出は600円程度であり、「この程度では選挙の公正は害されない」と述べた。
選挙規則第31条の「票の買収」は全会一致で認定した。「物品の提供で相手に好意的感情を抱かせ、投票行為を左右する」「他の候補との整合性の観点から物品を提供した矢部氏にだけ優位に働く」「塾生代表の候補者として行っているのは問題だ」「学生自治の根幹の選挙では買収の意図は排して、行為に関して厳正に処分すべき」などの意見が議員からあがった。塾生代表の山田健太氏は記者会見で、「指摘にもあった通り、お菓子であれば良いとすると、来年懸念がある。当然もう一度選挙が行われるが、前例を元にその程度のお菓子なら大丈夫だと(候補者が)お菓子を渡す形だと思われる。数百円程度のお菓子であれば何ら感情がゆり動かないということは、さすがに考えられる事態ではなく、本事例が妥当であるという判断は出来ない、というのが今回の全塾協議会の決定だと認識している」と述べた。
第32条の「立候補取り消し」は2名の議員が反対したが過半数の賛成により議決された。同時に15時に矢部氏に投票できないようにする措置を取るよう選挙管理委員会に要請することも議決された。「塾生代表選挙の性質を鑑み、たとえ数十票でも選挙結果を左右する可能性がある」「選挙の結果の正当性に関わる問題だ」などの意見があがった。
議案には矢部力也氏と選挙管理委員会の個人的な関わりについても記載があった。委員1名と事務員2名が矢部氏と個人的な関わりがあったと明らかになった。選挙管理委員会の監査役から「選挙管理委員会内部の者が選挙の公正性を欠く発言及び行為を行っているという事実は確認されなかった」との報告を受けていることも記された。選挙管理委員会の調査は、現行の規則上同委員会が全塾協議会の監査対象に含まれていないため、任意の聞き取りとなる。塾生代表の山田健太氏は「事実確認が終わったものと認識していない」と述べた。また、必要であれば議会の承認付きで強制力を伴う調査を行うことも視野に入れ、まずは議会にかける必要があるとの認識を示した。
なお、臨時会に議員として出席した四谷自治会会長の藤村悠哉氏は選挙管理委員会の委員長を、福利厚生機関本部代表の松尾和真氏は同委員会の副委員長を務めている。今後、選挙管理委員会が対象の議案が議会に提出された場合、両氏は議員として議事に加わることができない。
議会は7つの上部団体の代表者と塾生代表の山田健太氏が議員として出席する。文化団体連盟三田本部常任委員会委員長の松尾和真氏、体育会本部主幹の菊池龍志氏、全国慶應学生会連盟常任委員会委員長の東條克哉氏、全塾ゼミナール委員会委員長の三河創太氏、四谷自治会会長の藤村悠哉氏、福利厚生機関本部代表の松尾和真氏、芝学友会代表の横山さくら氏が出席した。議案は出席する議員の過半数の賛成により議決される。
※文化団体連盟三田本部常任委員会委員長の松尾和真氏と福利厚生機関本部代表の松尾和真氏は同姓同名だが、別人。
投票は14日0時から始まったため15時までは矢部氏への投票が可能であった。これに関して塾生代表の山田健太氏は「(矢部元候補への投票は)無効票になる可能性が高い」としつつ、17日の定例会で議会が判断するとした。また、立候補取り消しの周知に関しては選挙管理委員会に「塾生が正しい情報を基に判断できるように要請している」と述べた。
2023年度塾生代表選挙の投票期間は12月14日(水)から12月20日(火)。keio.jpに届いたNews内のリンクから選挙特設サイトにアクセスし、投票できる。
17日(土)の14時からは12月期の全塾協議会定例会が開催される。14日に投じられた矢部氏への票への対応や選挙管理委員会と矢部氏の関わり、選挙規則の改正などが議論される見通し。
※全塾協議会選挙規則
第 31 条(当事者の義務) 候補者またはこれを支持する者は、票の買収、選挙の妨害、不正投票その他不公正な 行為をしてはならない。
第 32 条(候補者に対する処分) 候補者または選挙運動員が、この規則に反した場合、全塾協議会は、決議によって立候補の取り消しまたは当選の取り消しを行うことができる。ただし、係る議決に際して、 当事者に弁明の機会を付与しなければならない
※公職選挙法 第139条第1項(飲食物の提供の禁止)
何人も、選挙運動に関し、いかなる名義をもつてするを問わず、飲食物(湯茶及びこれに伴い通常用いられる程度の菓子を除く。)を提供することができない。