慶應義塾中等部・女子高等学校を経て、文学部独文学専攻を卒業後、東京藝術大学大学院へ進学し、現在はプロのチェロ奏者として活躍している小林奈那子さん。
アロマテラピー検定1級を持ち、S・ピエスによる「香階(こうかい)」をもとにした「音楽と香りの不思議な関係」をテーマに、多数の講演会にも出演している。
ーー香りと音楽の関係について興味を持ったきっかけを教えてください。
声楽科の友達に「演奏前に緊張するなら、ラベンダーを嗅いだらどうか」と言われたのがきっかけです。
香りは昔から人間の身近にあって、音楽の中にも表現として出てきます。それを紐解いていくうちに、19世紀後半のイギリスの香料研究者S・ピエスが発表した「香階」に出会いました。音楽に音階があるように、香りには「香階」があって、「香階」をもとに調和のとれた香りを作ることができます。例えば、「ドミソ」を弾くと綺麗な和音が鳴りますよね。その和音に合った香りを調合すると、調和の取れたいい香りになるんですよ。
自分がどの香りのハーモニーを心地よく感じるのかを知ってもらえたら、日々が少し楽しくなるかもしれません。
ーー香りと音楽の関係を知ってから、演奏に変化はありましたか。
演奏家は、白黒の楽譜からの作曲家の意図汲み取って、それをお客さんの前で展示するような存在ですが、私は白黒の状態から曲をうまくイメージできなくて。そこで、楽譜に書かれている音に香りや色、言葉をイメージすることによって、曲を深く知るためのヒントにしています。クラシックの作曲家たちは、自分たちが生きた時代の空気感や考えていたことを、どうやって音で表現するか考えていたし、画家や詩人、政治家などさまざまな人との付き合いがありました。その中で曲は生まれているので、歴史や背景を一つ一つ丁寧に知って、曲のイメージを作り上げています。
ーー香水選びって難しいですよね。
これから皆さんが社会に出る時に、自分をブランディングするスキルが問われますよね。そのブランディングに、香りはとても役に立つと思います。おすすめの選び方は、花・柑橘系・木など、異なる系統の香りの中から、気分によって3つ好きな香りを選ぶ方法です。これで365日対応できると思います。
香りは味覚と同じで気分に作用するので、自分を知るのにとても良いツールですよ。香水は肌に乗せると、トップノート・ミドルノート・ラストノートの順に時間とともに香りが変化していきます。つけ始めのトップノートの香りが好きでも、ミドルやラストの香りが好きじゃないとつらいはずです。また、よくテスター用の紙がありますが、紙と肌では全然違います。そのため、店で選ぶときは必ず香水を肌につけて、一度帰ることをお勧めします。たまに一目惚れがあっていいと思いますけどね。
ーー中等部から大学在学中のお話を聞かせてください。
中等部に入ったきっかけは、「慶應に向いている気がする」と塾の先生におだてられたことです(笑)。
何も楽器ができないのはつまらないと思い、中等部の器楽部に入って、初めてチェロに触れました。軽い楽器をやるつもりだったのですが、チェロの人数が足りなくて(笑)。結局それがすごく良い出会いになりました。
高校ではワグネル・ソサィエティー・オーケストラに2年間在籍し、高2の途中頃東京ジュニアオーケストラソサエティ」が発足するというので、面白そうだと思い、オーディションを受けて入れていただきました。
また当時の女子高の校長先生の勧めで、夏にドイツへ行きキャンプに参加し、その縁あって、大学では独文学専攻に進みました。独文のゼミの先生方に「音楽のことだけをやってどうするの」と言われたことに納得し、音楽は文化史の一つですから、音楽を学びたくても、音楽のことだけを勉強していたらよいわけではない、と思いましたね。
日吉の総合教育科目(いわゆる一般教養)の授業がすごく充実していたおかげで、藝大の音楽史の試験は苦なくできました。バレエやオペラ、チェロの歴史など、慶大で知識として学んだことが、藝大の授業で実践されているのを目の当たりにして、学びの繋がりを感じましたね。慶大を卒業してから知ったのですが、総合教育科目の例えばオペラやバレエ、音楽史を担当している先生方は、皆さんそのジャンルの一流の学者なんです。三田にもアートや音楽文化を学べる環境が整っていて良い授業がたくさんありますが、日吉の授業にはかなり助けられました。
卒業してから「慶應でよかった」と思ったことが何度もありましたね。私が音楽という他の卒業生と少し違った方面に進んだことを、同級生や先輩方、後輩が今でも応援してくれるのはすごく嬉しいです。
ーーご自身はどんな塾生だったと思いますか。
一言で言うと、「糸の切れた凧」です(笑)。中学受験で一生分の勉強をした気分になってしまい、中等部から大学までは、ただ好きなことを好きなだけやる学生でした。好きなことを仕事にするのは結構勇気がいることですが、学生生活を通して、自分が「好きだ」と思うことを信用できるようになったのは良かったですね。
「好きなことを好きなだけやる」環境が慶應にあるので、これだけをモチベーションにして慶應に入ってもいいんじゃないかと思うくらいです。
ーー藝大大学院に進もうと思った理由はなんですか
慶大卒業後は、普通に就職するのかなって思っていたのですが、そこから先の自分がイメージできなくて。音大の友人や、後に私の師匠になる方に感化され、音楽についてもっと知りたいと思うようになりました。上場企業から届くたくさんのハガキを見た親に「このオファーを全部捨てて音楽やるの?」と聞かれても、「もっと音楽を知りたい」という気持ちの方が強くて、チャンスは1回と決めて受験しました。自分の好きなことをやるのが当たり前で、「なんとかなる」と思っていたので、不安は全くなかったですね。
慶應にいた時は、自分が周りの人からどう見られているかを全然気にしていませんでした。私の元々の性格というより、慶應という環境が私にそうさせたと思っています。
ーー塾生にメッセージをお願いします。
慶大には、自分の知りたいことを知っている先生や、疑問に思ったことを解消するための授業が必ずあります。「学生時代もっと勉強しておけばよかった」って、大人はみんな言うんですよ(笑)だから、400%くらい慶應を活用してほしい。キャンパス内には、行ったことのない施設や見たことのない資料がたくさんあるはずです。最後に、とにかく学生生活を楽しんでください!
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(堀内未希)