前回では、ミス・ミスターコンが抱える問題点をルッキズム、セクシズム、女性抑圧性の3つの側面から整理した。

今回は、3つの論点を踏まえてコンテストの運営に求められる改善策や観客、メディアがいかなる視座でミスコン・ミスターコンを見るべきか、ミスコン研究・ジェンダー理論で知られる武蔵大学(他)非常勤講師の高橋幸さんに引き続き話を聞いた。

 

 

顔を見せずに匿名で

課題を解決する新たな取り組みとして、顔を見せない方針のミスコンが開催されている。2021年に「自分らしく輝ける」をコンセプトに立命館大で開催された、「ミラクルガール立命館」だ。

顔を出さずに匿名で活動することで、参加者は様々な自己アピールを考えるようになり、観衆も発言に目を配るようになる。

人々のまなざしを外見からずらすことで、観客1人ひとりが容姿以外の多種多様な要素をそれぞれ重視するようになる。候補者に対する解釈が多義的になるという点で、一歩前進した開催形式といえる。

ただし、体型の見えにくい服装をしていたとしても、だいたいの体型や雰囲気は見えてしまうため、スタイルという見た目の評価基準は残ってしまう。

 

新しい取り組みは慶大でも

慶大のミス・ミスターSFCでは、ミス・ミスターの区別を残しながら、候補者が選択した性別が尊重されている。

この経緯を運営団体である「ミスミスターSFCコンテスト実行委員会」はツイッター上で、「性別の枠組みを残すことで、改めてジェンダー問題を考えるきっかけとし、性の多様性を表現することができると考えています」と説明した。

たしかにミス・ミスターのどちらで出場するかを当人に委ねることで、たとえばトランスジェンダーの候補者が、自らの男/女らしさを周囲に向けて表現する場を提供できる。

しかし高橋さんは、この方針に対し「(多くの票を得ようと思ったら)候補者が男/女らしさの理想像に合わせていかないといけなくなる」と指摘する。

枠組みが残ることで、画一的な男女の美の基準に沿った評価がなされてしまうからだ。そのような男/女らしい姿を見せたい参加者がいたとしても、それは全員ではない。幅広い参加者を包摂する枠組みを設ける、また画一的な価値観(男/女らしさ)に頼らない多義的な解釈を可能にするという意味で、ミス・ミスターの区別をなくすことが求められるという。

ミス・ミスターの枠組みをなくすことに加えて重要なのが、候補者が搾取されやすい構造の是正だ。バイトよりもミス・ミスターコン活動を優先せざるを得ないにもかかわらず、運営団体から出場者への報酬は今のところ一切ない。ライブ配信などで候補者が多額の課金による収益を出しても、それは全て運営に回ってしまうという現状がある。

見せ物になってしまいやすいというLGBTQの参加者を批判から守る、かつ適切な収入を渡すなど、候補者・運営団体・観客が対等な関係を築くことができる正当な運営のあり方が求められる。「運営団体が正義を貫くことに社会的意義がある」と高橋さんは語る。

名称典型的な形式と異なる点
ソフィアンズコンテスト
(上智大.2020〜)
ミス・ミスターの区別を廃止・「自己PR
部門」と「SDGs部門」で評価・顔や個人
情報を隠すことが可能
ミス・ミスターSFC
(慶大.2020〜)
候補者が選択した性別を尊重
ミラクルガール立命館
(立命館大.2021〜)
顔を出さない・匿名
VERA CONTEST
(東京女子大・2022〜)
外見を評価基準に含まない・広報大使と
しての発信力を評価

【開催形式が変化したコンテスト】

私たち観客に求められる姿勢

私たち観客は、どのようにミス・ミスターコンを見れば良いのか。「その人かわいい」「その人素敵」と応援する分には問題ないのだという。何よりも肝心なのは、候補者の人間性や個性、発言にも目を向けることだ。

「画一的な男女観からズレるところや、その人固有の「ヘン」なところ、その人がひたむきに頑張っているさまを愛して応援するという楽しみ方もあると思います」と高橋さんは語る。

 

メディアはどう報じるべきか

最後に、メディアがどのようにミス・ミスターコンを報じるべきか聞いた。

「画一的な、性的な表象をしないこと、大学では特にそれが重要。取材するときに、なるべく新しいところに光を当てること」と、高橋さんは答えた。

本紙は引き続き、ミス・ミスターコンが持つ問題点と影響力を理解し、正しい報道を目指していく。

 

(山下和奏)