明治8年、福澤諭吉によって開館された三田演説館(写真=慶應義塾大学WEBサイトより)

19世紀後半、福澤諭吉翁はdebate(ディベート)「弁論・討論」と訳した。それまで文書での意思表明が主流だった日本に、自分の意見を口頭で伝達する手段として、演説や弁論・討論を紹介したのだった。明治7年には三田演説会を組織し、演説や討論の普及に務めたが、この三田演説会の専用演説ホールとして建造された建物こそが三田演説館である。演説館は明治8年の開館以降、改築や修復を重ねつつ、現在も三田キャンパス内に厳かにたたずんでいる。

現在のディベートの意味合いは弁論よりも討論に近く、学校教育でも取り入れられている。今回はディベートの基本とその魅力について、日本ディベート協会理事・立教大学異文化コミュニケーション学部教授の師岡淳也さんに話を聞いた。

日本ディベート協会【JDA】(写真=提供)

ディベートの基本ルール

ディベートは原則2~4人組で、肯定側と否定側に分かれる。まず肯定・否定双方が立論として主張を展開し、立論に対する質疑を受け付ける。その後、相手側の意見を批判する反駁を行う。最後に最終弁論で自分たちの主張をまとめ、論理の正しさを聴衆に訴える。

「調査型」・「研究型」 2つの形式

ディベートの形式には、「調査型」と「即興型」の2種類が存在する。調査型ディベートではあらかじめ提示された論題に関する情報を収集し、より説得力のある議論を展開できるようチームで協力して、本番までの数ヶ月間にわたり準備を重ねる。一方、即興型ディベートでは会場で示される論題に対し、自分の知識をもとに議論を構築する。即興型では、調査型のように論題に関する情報を事前に調べて議論に臨むことはできない。そのため、日常的にニュースに目を通し、様々なジャンルに関して幅広く知識を身につけていくことが重要となる。

どちらの形式でも、審査の上では主張を裏付ける論理の合理性が重要だ。そのため、参加者はデータや具体例を活用し、自分たちの議論により説得力があることを審査員や聴衆に示す必要がある。

ディベートで身につく力とは

では、ディベートは大学生の日常生活や学びにどのように活かすことができるのだろうか。

「説得力のあるディベートをするには、合理的な議論を組み立てる論理的思考力に加えて、相手に分かりやすく話す力が求められる。調査型ディベートでは主張を裏付ける情報を集めるリサーチ力、即興型ディベートでは日頃から社会情勢に関心を向けて幅広い教養を身につけることが必要となる。これらの能力は、プレゼンやレポート作成といった場面でも役立つのではないか」と師岡さんは考える。

学業以外でも、ディベートで求められる議論の姿勢は、日常生活でコミュニケーションをする上での示唆に富んでいる。

ディベートでは正反対の立場の人と議論しなければならないが、その経験を通して、「自分と異なる意見を持つ人の存在を認め、相手の話に耳を傾ける姿勢が身につく。『論破』するのではなく、他者に敬意を払いつつ議論をする作法を学べる」と師岡さんは話す。

グローバル化が進展し、多様な価値観が受け容れられつつある現代社会では、誰しもが価値観の異なる人とコミュニケーションをとる機会を得る可能性がある。ディベートによって培われる冷静かつ対等に議論する姿勢は、これからの社会に必須なものとなっていくだろう。

ディベートに興味を持ったら……

師岡さんはディベートを「議論の実験室」と表現する。ディベートの魅力について、「様々な主張を検討し、情報を集めて議論をする過程では知的好奇心を刺激される。エンタメというよりは、知的な楽しみがある」と語った。

最後に大学生に対して、師岡さんは「大学ディベート界は比較的大学間交流が活発で、学外でのネットワーク構築もしやすい。また、ディベートにはやってみないと分からない楽しさがある。初心者向けのディベート大会もあるので、気軽にディベートサークル等に足を運んでみてほしい」と話した。

 

(山口立理)