慶大と東急株式会社(以下、東急)は昔から歴史を共に歩んできたと知られているが、来年の3月を目処に東急新横浜線が開通されることによって、慶大、日吉にも新たな変化が予想されている。そこで今回は、東急で広報担当を務めている奥野さんに慶大と東急の関係と新線開通の経緯の内容について聞いた。
東急新横浜線の開通
今回開通する区間は、日吉駅から新綱島駅・新横浜駅を経由し、羽沢横浜国大駅までの合計10kmのうち、日吉から新横浜までが東急新横浜線である。羽沢横浜国大駅からは既に開通している相鉄新横浜線を経由し、西谷駅から相鉄本線と直通する。また、ラッシュ時には一時間に最大14本の電車が運行される予定である。
東急と慶應の関わり
現在の東急の前身の一つである目黒蒲田電鉄(現在の目黒線及び東急多摩川線など)が学校を誘致したことにより、乗客数が大幅に増えた。そこで、同じく東急の前身である東京横浜電鉄は、東横線沿線の学校誘致を図った。当時、慶應義塾予科は、横浜市旭区などに移転する計画があったが、目黒蒲田電鉄と東京横浜電鉄は、共同経営地であった23万7600m²の土地を慶大に寄付するとともに一般所有者から慶大が10万5600 m²の土地を買収するため仲立ちまで行うことで、1929年日吉キャンパス設立の仮契約が締結された。慶大に寄付された土地の当時の地価はおよそ72万円。1929年通期の東京横浜電鉄の総収入額の4割に及ぶことを考えるとかなり多額の寄付であったと奥野さんは語る。しかし、この寄付によった日吉移転の効果は、東横線沿線の乗客需要の増加だけでない。当時日吉界隈に東京横浜電鉄が開発していた日吉台地区の分譲地が売れ始め、地価の高騰までももたらしたという。この変化は、「選ばれる沿線」を常に追求してきた東急の沿線開発事業に大きく寄与したという。
新線開業の経緯
このように深い関係がある慶大の日吉キャンパスと東急だが、羽沢横浜国大駅から新横浜駅を経由して日吉駅まで繋がる新線の開通により、また変化の波が押し寄せている。新線の言及は、国土交通省の交通政策審議会の前身である運輸政策審議会により行われた2001年の運輸政策審議会答申第18号に遡る。この答申に、新横浜を経由し東急線と相鉄線が相互直通運転を行う路線は、「神奈川東部方面線」として記されており、2015年まで開業すべき路線として位置づけられたという。当時から相模鉄道により繋がっている神奈川県中央部から東京都心部への速達性の改善や、今もJR横浜線と横浜市営地下鉄しか通っていない新幹線新横浜駅のアクセス改善が期待されたと伺える。
慶應生の反応は…
走行距離はたった10kmにすぎない路線だが、塾生の通学事情は大幅に改善される。というのは、まず現在の相鉄沿線からは凡そ16分ほど所要時間が短くなり、乗り換えも不要であるためである。相鉄本線に乗って日吉キャンパスに通っている塾生からは横浜駅を経由する必要がなくなることにより通学が楽になるため路線の開通を期待しているという声が寄せられている。また、東海道新幹線への乗換駅である新横浜駅までのアクセスも改善され、地方からの通学も一層便利になる。
それにもまして、湘南藤沢キャンパスの塾生らにもかなりの朗報である。新線の開通により日吉キャンパスなど他キャンパスで授業を受講したり、サークル活動に参加したりするのも以前より気軽にできる見通しだ。それは、湘南藤沢キャンパスの最寄り駅である湘南台駅から日吉駅まで電車一本で行けるようになるためである。日吉を活動拠点としているサークルも、今後はSFC生も活動に参加できるような体制を検討しているということだ。
目に見える課題も
このように様々な塾生が各々違う立場で開通を期待している新線だが、いざ開通すると危惧される課題もある。既存の東横線の横浜駅~日吉駅の区間を利用して通学する塾生に対しては、新線の開通により電車の本数が少なくなることにより所要時間が増えるのではないかという懸念がある。それに関して奥野さんは「お客様のご利用動向を把握・分析し、適切な輸送力を確保できるように努めてまいります」と明かしている。また、現在も東横線では特急やFライナーに間違って乗り、菊名駅から折り返し乗車をする塾生が多い点に鑑みると、東横・目黒線の行き先が各々元町・中華街と日吉だけでなく海老名、湘南台など増えることによって混乱も予想されている。この点についても適切なご案内ができるように検討していると奥野さんは明かす。