連日多くの塾生で賑わう日吉周辺では、これまでに多くの遺跡が発見されている。そう語るのは、慶大文学部で考古学を専門とする安藤広道教授だ。
「例えば弥生時代の終わりの頃のものとされている遺跡は、かつては東日本の弥生時代集落遺跡の代表例とされていました。また、一帯には古墳時代の前方後円墳をはじめとする古墳もいくつか残っていました。最近のものでは第二次世界大戦中に作られた地下壕があります」
全国で調査が進んだ今、これらの古代遺跡に「最古級」や「最大級」というような特徴があるわけではない。しかし、弥生時代から古墳時代と、時代の移り変わりを1つの場所で見られるという点では非常に歴史的価値のある遺跡だと教授は指摘する。慶大がこの地に来るまで大きな開発がなく、古墳も盗掘(墓荒らし)に遭っていなかったのが幸運だったようだ。
発見された遺跡・遺構の中でも特に思い入れがあるのが、教授自身が調査に携わった独立館建設地にあった遺跡だという。当時の学内では、日吉の遺跡はみな破壊され残っていないという思い込みが強く、調査をせずに独立館の建設が進められようとしていた。学生時代に教授は、遺跡が残存していることに気が付き、メディアセンター建設時に調査を進言したが聞き入れられなかったことがあったという。そのような苦い記憶が独立館建設地での発掘につながったのである。ただ、試掘では予想通りいくつもの竪穴住居が見つかったものの、すでに独立館の建設を延期することはできず、調査は夜間や休日にも及んだという。
今後、日吉で大規模な工事がない限り同様の規模での発掘が行われることはない。その中で学生が遺跡に興味を持つにはどのような意識を持てばいいのかを聞いた。「食堂棟の中庭や第四校舎近くの花壇の下などにも恐らく遺跡が眠っています。部室のプレハブ周辺では弥生時代の墓地も発見されています。土器などの欠片が落ちていることもあります。自分たちの足元に遺跡が埋もれているかもしれないと意識するだけでも興味が湧いてくるかもしれません」
最後に、遺跡に興味を持ち始めた初学者におすすめの場所はあるか聞いてみると、意外な答えが返ってきた。
「民族学考古学研究室で管理している資料は、慶大の財産であると同時に皆さんにも利用する権利があるものです。資料は貴重なもので、扱いには注意が必要ですが、だからと言って、研究者しか見ることができないと考える必要はありません。興味を持つ人が増えるのなら、ただ見てみたい、触ってみたいというような動機でも大歓迎です。是非遠慮なく声をかけて欲しいと思います。私の時間が空いているときであれば対応いたします」
(松野本知央)