双日優勝を飾った2022年春の早慶戦。その舞台となった神宮球場で、大きな塾旗を掲揚していたのは華奢な女性だった。
塾旗は慶應義塾が應援指導部に預けているもので、現在は11種類の塾旗を所有している。塾旗は、位が上がるほどに大きく重くなっていく。旗手ははじめ一番小さな旗から掲揚の練習を始め、徐々にランクを上げていく。塾旗の重さを支える体幹はもちろん、掲げる姿勢、待機姿勢など、こだわればこだわるほど難易度は上がっていくという。
14日、新体制を発表した應援指導部。チアリーディング部、吹奏楽団の2部門体制で活動を継続する。旧体制下では塾旗の旗手を務められるのはリーダー部に在籍する男性だけだった。しかし、リーダー部のに伴いチアリーディング部と吹奏楽団が塾旗掲揚を担うことになった流れで、女性旗手が誕生した。
「当日、風が強かったらどうしよう」
塾旗掲揚の前日、チアリーディング部のOさん(法学部・2年)は緊張が止まらなくなった。上手に揚げられるかという不安はもちろん、掲揚したくても掲揚できない男子の同期の存在を思い、本当に私で良いのかと自信がなくなってしまう夜もあった。
それでも、仲間の存在は力だった。皆の気持ちを背負って旗を掲げた。Oさんは2年生。まだまだいろいろ経験できるかなと今後の活動に期待をのぞかせる。進む再建活動にも積極的に参加して應援指導部の骨格を作れるような存在になりたいと語る。さらに、塾生に向けてこう話した。「野球など試合を観に来る機会があれば選手たちのプレーをたくさん見るのはもちろん、是非應援指導部員と一緒に、応援を作り上げて選手を後押しして欲しい」
同じくチアリーディング部で、旗手を務め現在は後進育成にも力を入れるKさん(文学部・3年)は新しい部の理念として「存在意義」を掲げる。旧体制では長く複雑で浸透しづらかった理念を、簡潔にわかりやすいものへ変更した。
旗手の仕事が部全体に流れたように、新体制になってからは役割が流動的になり、全員にチャンスのある、自己実現のしやすい環境になっている。「應援指導部は應援するだけではない。部の名前に『指導』と入っている以上、慶應義塾全体を巻き込み、先導していけたら」と語る。
最後に塾生に向けてのコメントを求めると、「應援指導部はあくまでも花を添えるポジション。行かせていただいたら全力で盛り上げさせていただく。それでも、試合観戦の際は私たちにも少し注目していただけたら」と笑顔をのぞかせた。
今、確かに應援指導部には新しい風が吹いている。
Kさんは18日に開催される六旗の下にでも旗手を務めた。大役を務めることへの緊張感と誇りを胸に舞台へ向かった。新体制となった應援指導部。彼女たちは凛とした眼差しで未来を見つめている。
(小島毬)