6月14日は世界献血者デー。この日は献血者に感謝すると共に、血液製剤を必要とする方に献血が欠かせないことを知ってもらう日となっている。駅前や大学近くに停まっている献血バスを見かけることも、一度や二度ではないだろう。しかし、献血に対してハードルが高く、近寄り難い印象を持っている塾生も多いのではないだろうか。知っているようで意外と知らない、献血のリアルについて、東京都赤十字血液センターの平柳美月さんに話を聞いた。
「輸血を必要とする患者さんを救うために、全国で1日に約1万4千人の献血協力が必要です」と平柳さんは訴える。血液は人工的に造ることも、長期保存することも現状不可能であるからだ。そして、献血者の健康を守るため、1年に献血できる回数や量には制限が設けられている。そのため、安定的に血液製剤を届けるには、多くの人の継続的な協力が欠かせないのだ。
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血液の活用方法
では、献血によって集められた血液はどのような状況で活用されるのだろうか。大半の人が思い浮かべるであろう大怪我などで大量出血した場合、というのは実はごく一部である。輸血に使われる輸血用血液製剤は、実際は癌などの病気の治療やに大半が使用されている。また、献血血液の半数以上は血漿分画製剤という医薬品の原料となる。
血漿の中には100種類以上のタンパク質がある。その中で特に重要なタンパク質を物理科学的に各々の成分に分け、それらの成分ごとに生成したものが血漿分画製剤である。これらは重要な働きを持ち、ほかの物質で役割を代替することができない。そのため、血漿分画製剤の存在意義はとても大きいと言える。これらの輸血用血液製剤や血漿分画製剤の多くは高齢者医療に使われている。それに対し、献血を大きく支えているのは、16歳から49歳の人々だ。
現在の献血状況
平柳さんは現在の若年層(10代から30代)の献血者数が減少傾向にあるという状況に、警鐘を鳴らす。「日本の少子高齢化が今後ますます進んでいくと、将来の安定供給に支障をきたす恐れがあります」。先程挙げたように、血液は長期保存が出来ないため、医療機関に安定的に血液を供給するためには、日々必要な献血量を十分に確保する必要がある。「今後の安定供給のためには、若い世代の献血への理解と協力が何よりも欠かせません」
若者、特に大学生の献血状況の現状はどうなのか。新型コロナウイルス感染症が猛威を奮っていた2020年4月は、対面授業が減少した。このため、大学等教育機関での集団献血はほとんど実施できず大学生の献血量は少なかった。しかし、2022年の4月以降は大学の対面授業も再開し、集団献血の実施も可能になってきたという。「特に2022年の4月は大学生の集団献血に大変助けられました」。日本赤十字社では、大学等教育機関の集団献血のほかにも、大学生など若者に献血を呼びかけるさまざまな取り組みが行われている。
献血についての取り組みや活動
親しみやすい芸人や若いタレントなどをイメージキャラクターに起用した広報活動や献血の意義や、血液製剤に関する理解を深めるための「献血セミナー」などを実施している。それに加えて、学生献血ボランティアによる献血会場での呼びかけや、SNSでの活動発信や、記念品を学生会議で決めるなど学生の意見を反映しながら、献血が若い世代から若い世代へつながるような普及啓発活動も盛んだ。「このような取り組みの結果、平成29年度から令和元年度にかけては、10代の献血者は増加、もしくは横ばいで推移しました」と平柳さんは成果を強調した。新型コロナウイルス感染症の収束への見通しが不透明な中、新たな献血推進の形を模索している。
最後に、献血によって命を救われた方の言葉を紹介したい。「献血は私の命を繋いでくれた命そのものです。献血にご協力くださった方々には感謝してもしきれません」この方は出産した時に大量出血してしまい、献血者約20人分の輸血によって助かり、今は家族で幸せに暮らしているという。このような輸血を必要とする人を救うためにも、平柳さんは「みなさん一人一人のお力を必要としています」と訴えている。献血は16歳からできるとても身近なボランティア。自分のできる範囲から、、献血協力の勇気ある一歩をぜひ踏み出して欲しい。
(吉野彩夏)