稽古後、今回の舞台に出演される、李香蘭役の野村玲子さん・慶大卒の出演者である星えり菜さんにインタビューを行った。

 

野村玲子さん【李香蘭(山口淑子)役】

――お稽古、お疲れ様でした。今公演の見どころを教えてください

『李香蘭』というと一世を風靡した歌姫の物語と思われるかもしれません。でも、李香蘭も時代の中のパーツであって、時代のタペストリーに李香蘭の赤い糸がすっと通ったような作品なんです。タイトルは『李香蘭』だけれども、主役は時代、李香蘭という女性が時代の流れの中で翻弄されてしまったというところですね。

 

――初演からずっと李香蘭役を演じられていますが、今のこの世界情勢の中で『ミュージカル李香蘭』を上演する思いをお聞かせください

山口先生(山口淑子さん)がよくおっしゃっていたのは、「裁判で裁かれたときも、日中の平和を祈っていた。それだけは信じてほしい。」ということです。李香蘭としての人生を終えられてからも、山口先生は政治家になられるなど、ずっと和平を考えて活動されていました。私が演じるのは、26歳までの人生ですが、この作品に込められたメッセージをつないでいきたいです。

 

――初演時と現在演じられている中で、思いに変化はありましたか

もちろん舞台での居方は同じですが、30年経って感じるのは、今ウクライナで起こっていることを見ても、世界はなかなか変わらないということでしょうか…私たちは歴史から学べないのかなと考えてしまいます。

――お稽古中に「想い」という言葉をよくおっしゃられていたのが印象的でした。浅利先生から受け継いだ思いはどのようなものでしょうか

戦争で亡くなられた方たちの想いや、大変な時代を経験された方々がいて今の私たちがいるということを忘れてはいけないと言われました。

山口先生も「ちゃんと歴史を学んでほしい」・「人の痛みがわかる人間でいてほしい」とおっしゃっていました。

 

――お稽古場の雰囲気がとても和やかだと感じました。演出と俳優を両立される中で心がけられていることはありますか

この作品は1人の役者が場面によって国も立場も違う、さまざまな役を演じるのが特徴で、その登場人物たちがパーツパーツで支えてくれているから、舞台が成り立ちます。ですから、みんなで、チームで作っていくということを心がけています。

また、「戦争」という重いテーマを扱っている作品なので、お稽古場の雰囲気は明るくしようとコミュニケーションを大切にしています。

 

――観劇される方にメッセージをお願いします

私やほかの俳優もそうでしたが、日本人は自分たちのたどってきた歴史を知らなさすぎるところがあると思います。今回のカンパニーは17歳から70代まで幅広い世代がいて、それぞれ持っている知識が違いますが、各々必死に勉強しながら皆で作品を作り上げています。ぜひ劇場に足を運んで知っていただけたらと思います。




星えり菜さん【2020年総合政策学部卒・Envision Nextage所属】

――今回、『ミュージカル李香蘭』には初のご出演でしょうか

はい。昨年のミュージカル『ユタと不思議な仲間たち』(浅利演出事務所主催・自由劇場)で初舞台を踏み、今回が2作品目です。

お稽古開始前に、まずこの作品の元になった「李香蘭 私の半生」(山口淑子、藤原作弥著・新潮社)という本を読み、作品に描かれている時代背景を勉強したり、当時の資料や映像を見て、知識を深めていきました。

お稽古が始まってからは、本や映像を通して客観的にその時代を眺めていたところから、俳優として、自分がその時代の中で生きる、「実感」を持って居るということを追求していく日々です。

「迷ったら台本に立ち返る」――。このことを今回とても大事にしています。

私はアンサンブルとしていくつも異なる役を演じますが、そのシーンごとに役を切り替えて演じることは非常に難しいです。台本読みを経て歌や踊りの振付、ステージングと進んでいく中で、いま一度台本の言葉に立ち返り、自分が演じる役のシーンや役割を再確認することは、とても大切な作業だと感じています。

 

――戦争を経験していない中で、どのように役作りに取り組まれましたか

実際の戦争を知らないので、戦争という大きな悲劇を生んだ出来事の中で生きるには、どうするべきか非常に悩みました。ただ今作品では、若者が重要な役割を担っていて、抗日運動やわだつみのシーン(特攻兵が一人ずつ実際の遺書を読むシーン)など若者と戦争の密接な関係性が多く描かれています。今の私たちと同世代の人たちが、その当時どのように生きていたのか、そこには特に興味を持って、当時の映像や関連する資料を見ました

浅利先生の「若い世代に戦争の悲劇を伝えたい」という思いと平和への祈りが込められた作品なので、その使命を持って頑張っていきたいです。

 

――慶大で学んだことは今のお仕事に役立っていますか

私はSFC出身ですが、文学部の「演劇史」などの演劇分野の授業を履修していました

ゼミの卒論では、ミュージカル分析を通じた、現代社会における舞台芸術の効果について研究しました。演劇の歴史や演劇理論を深く勉強できたことは、今の役者としての仕事に非常に役立っています。

 

――舞台のお仕事はずっと志していたのですか

私がこの舞台芸術の世界で生きていくと決めたのは大学生の頃です。

幼い頃から踊ることが好きで、バレエダンサーを目指していた時期もあり、大学ではダンスサークルで4年間、自主公演の制作などに力を注いでいました。

舞台関係の仕事に就きたいと思い、就職活動もしていたのですが、「舞台に立つことはもう考えていないの?」という言葉をかけられた際にはっきりとは答えられなかった自分がいました。同時にまだ舞台に立つことへの夢を諦めきれていないことに気づかされたのです。

また、「若ければ、自分次第で何でもなれる!」と言ってくださる方にも出会え、背中を押されましたね。

 

――今作品を通じて、慶大生に伝えたいことがありましたら、お聞かせください

慶大生として学び、過ごした期間は、今でもとても良い思い出です。

学生だからこそ没頭できること、さまざまな世界に踏み込めることが多くあると思うので、ぜひいろいろなアンテナを張って、自分の興味を深めていってほしいです。今作品の内容は、現在の社会情勢と重なる部分が多くあります。ぜひ多くの学生の方々に舞台を通じて、戦争という歴史を見つめたり、何かを感じたり、自問したりするきっかけにして頂ければと思います。

また、演劇は観客と役者との五感の交流が醍醐味だと思うので、その一回限りの生の舞台空間を、劇場で味わっていただけたら嬉しいです

 


『ミュージカル李香蘭』

日時:2022年4月23日(土)~5月8日(日)

場所:自由劇場(〒105-0022 東京都港区海岸1-10-53)

チケット:全席8,800円(税込)

主催:浅利演出事務所/協力:劇団四季

公演の詳細はこちらから

 

 

(加藤萌恵・木村珠莉)

 

慶應塾生新聞会では、2016年に浅利慶太氏にもインタビューを行っていました。

『ミュージカル李香蘭』にかける思いもお話してくださっていますので、ぜひご覧ください。

劇場で、戦争を伝える 浅利慶太氏