「心にも国境はあるのですか」――。

『ミュージカル李香蘭』が4月23日(土)から5月8日(日)まで、東京の自由劇場で行われる。

この舞台は、1920年代から1945年までの時代背景を中心とし、絶世の歌姫・李香蘭(山口淑子)の数奇な運命を描いた物語である。劇団四季創設者の故・浅利慶太氏が「戦争を知らない若い世代に届けたい」という思いで手がけたこの作品は、時代を超えて何度も再演され、今を生きる私たちに多くのものを問いかけてくれる。

 

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※これまでの公演より(浅利演出事務所提供)

 

今回は、舞台初日まで2週間あまりに迫った稽古場の様子を取材した。

稽古は、浅利氏の言葉を皆で見つめなおすことから始まった。カンパニーでは「今の観客はほとんどが戦争を経験していない、私たちがその悲劇を伝えなくては」という思いを胸に日々稽古を積み重ねている。この日は、1幕の最初から2幕の最後まで、通しながらの稽古が行われていた。

 

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※お稽古の様子

この作品は、上海軍事裁判所で李香蘭が裁かれる場面から幕が上がる。ささやかな平和の時代であった、李香蘭の幼少期の回想シーンを経て、日本が戦争へと突入していく姿、またそれに伴う人間関係の変化が丁寧に描かれている。

1幕のあるシーンでは、李香蘭が兄のように慕っていた杉本が王玉林(李香蘭の中国の姉、愛蓮の許嫁)に対し、日本人としての正義をふりかざす。日本が中国に進出することを是として、疑わなかった杉本。日本の行為は迷惑だと言い放った、王玉林。

「彼らは悪くない。時代が違えば、親友になれただろう。」と、切なくも目を見張るものがあった。

 

今公演は、李香蘭役の野村玲子さんが演出も担当し、川島芳子役の坂本里咲さんがその補佐を務めている。お二人が稽古で繰り返し口にしていたのが「想い」という言葉だ。その時代、その場所で生きた人それぞれの「想い」を大事にする。「この作品では、嘘は描けない」という浅利氏の言葉を大切に役者一人一人が丁寧に演じていた。

稽古後、多くの出演者が浅利氏の遺影に手を合わせていた。「若い世代に戦争の悲劇を伝える」という強い思いは、脈々と受け継がれている。

 

日本人でありながら、中国人として生きた李香蘭(山口淑子)。中国人でありながら、日本人として生きた、川島芳子。2人の「よしこ」が生きた時代、日本では、そして中国では何が起きていたのか。そして、人間の心は国境を越えられるのか。公演の幕開けまであと1週間。ぜひ劇場に足を運んでみてはいかがだろうか。

 

(次ページ:主演の野村玲子さん・慶大卒の出演者・星えり菜さんにインタビュー/作品の見どころに迫る)