【ウィメンズマーチ2022参加レポート「『私』に何が求められるか」】

 

渋谷の街を歩くマーチ参加者

私は法学部政治学科の1年の男子大学生だ。今回はウィメンズマーチ2022に参加し、私の視点から率直に思ったことをまとめてみた。私自身社会運動に参加することが初めてであり、その感想も含めてお伝えしたい。社会運動に参加したことのない学生や、ジェンダー差別運動にあまり興味がない人も、もし良ければ参考にしていただければと思う。あくまで個人の意見であることにはご了承願いたい。

初めての社会運動

いわゆる社会運動に参加するのはこのウィメンズマーチが初めてのことだった。社会運動には興味があったが実際に参加する機会は今までなく、一度体験してみたいと思ったのが参加の大きなきっかけである。

 

男性として参加するウィメンズマーチ

ウィメンズマーチの概要については省略するが、「ウィメンズ」と称され、性差別の反対を掲げる運動に男性として参加するのには緊張感があった。事前情報では参加は圧倒的に女性が多いらしく、もしかすると男性が苦手な人もおおいかも、白い目で見られないだろうか、うまく取材は出来るだろうかという不安が強かった。そこで、一般参加ではなくボランティアスタッフに応募し、ひとまずの居場所を確保しつつ参加することにした。

 

参加者の様子や反応

ボランティアは早めに集合し、各々コースや仕事の確認を行った。その後参加者が集まったら出発、国連大学前から渋谷の街を歩き、その後解散という流れだった。参加者はやはり女性が多い様子で、団体もあれば個人で参加している人、学生っぽい人など様々だった。後にも述べるが、私に対して冷たい反応をするような人などおらず、むしろ活動に参加する若者として好意的にみてくれる人が多かったように思う。この点いい意味で当初の予想を大きく裏切ることになった。正直twitterなどで攻撃的な発言をする人を何度か目にしていたこともあって、そのような反応もあるかと思っていたが、実際そんなことは全くなかった。同じくボランティアに大学4年の男子大学生もおり、私は彼と交代交代でトラメガを持つ係をすることになった。

 

ゲリラ取材敢行

とはいえ、取材を申し込んだ場合どんな反応をされるかにはまだ不安があった。主催者の方へはもう一人の記者が取材を行っていたため、私は参加者に直接話を聞いてまわることにした。取材は、「参加理由、どこでマーチを知ったのか、どんな社会になってほしいか、何か大学生に伝えたいこと、言いたいことはあるか」を中心に聞いた。聞いたお話は全て載せたいところだが量が多いので、私なりに感じたことをまとめることにする。

 

参加者の声

参加理由やなぜ知ったかに関しては、圧倒的にネットからの情報が多かった。Twitterから情報を得て興味を持ったという人もいれば、団体として例年参加しており今回も同様に、という人もいた。大学生の参加者は、ゼミで教授に勧められて、社会運動を一度見てみたかったから、という回答も多かった。社会運動やフェミニズムについて扱うゼミなどでこういった告知がなされて参加、というケースがあるようだ。いずれにせよ、このコロナ禍でもネットを中心に情報を拾い、様々な人が参加をしている。

「どんな社会になってほしいか」は、もちろんこれを主張するために参加したひとが多かっただろう。人によって違いがありまとめることは難しいので、いくつか列挙したい

・あらゆる差別がなくなってほしい

・フェア、公平な社会

・女性が一人でも生きていける社会

・ハラスメントのない社会

・社会で女性がリーダーになってほしい  など

今回は戦争反対もテーマの一つだったが、多くのひとが差別の反対を訴えていた。ここに並べると単純で記号的な文字列に見えてしまうが、一人一人が熱い思いをもって語ってくれるのが伝わってきた。特に男性だと、ネットで女性差別の主張を見ると、目を逸らしてしまう、あるいは冷笑的に見てしまうことがあると思う。実際私もそのような気持ちを持つことがあった。しかし、その文字だけで見る情報と、実際に訴える者の声を聴いて受け取る情報にはズレがあるように感じる。実際に聞く声は、文字だけでは伝わらない熱や色を持っている。この問題は、私たちがこれから生きていくうえで避けて通ることはできない。であるならば一度実際に声を聴いてみることは必要なのだと思う。もしかすると自分の中で作られたイメージが大きく変わるかもしれない。昨今のネットでは情報が偏ってしまうことも多く、一度ネットの世界を抜け出して現実の世界で目を向けてみる、という姿勢はひとつ重要になるのではないだろうか。私も今回のマーチを体験して印象が変わるところがあった。

「私たち(大学生)に伝えたいこと」は、私自身思うところも多く、後述したい。

 

メディアから取材を受けた

マーチの最中、Buzzfeed Japanと毎日新聞から取材をうけた。Buzzfeed Japanからは、参加理由、自分がなにか不当に感じたこと、(それを踏まえて)どんな社会になってほしいか、を聞かれた。こちらは記事化されネットに公開されているので、よければ探して見てほしい。毎日新聞からはふつうの参加理由と、なぜ(男性として)このマーチに参加しようと思ったか、男性が参加する意義を聞かれたと思う。歩きながら答えたためだいぶ微妙な返答になってしまったのだが、素直に社会運動への興味と、むしろ男性が目を向けないと社会が変わっていかないのではないか、といったことを答えたはずだ。受ける取材の内容から、自分にどんな目が向けられているかがなんとなく感じることができる。私は2人から取材を受けたわけだが、この人数はおそらく結構多い方だったはずだ(同行していた塾新の記者は取材を受けていなかった)。記者の方に取材を受けやすかったのは、若者であること、そして男性であることが大きな理由だったと思う。もちろん女性の参加者が多かったから男性もインタビュー、というバランスの側面もあるだろうし、本当にただの偶然という可能性もある。しかし同時に、若者や、今回参加が少なかった男性に活動のことを知らせたい、あるいは目を向ける足掛かりしてほしいという意図がインタビュー人選にあるように思える。

シンプルな感想としては、名の知れたメディアに取材をされるのは嬉しさと気恥ずかしさがあった。先日作ったばかりの塾生新聞会名刺を配りまくって宣伝することも忘れなかった。業界人と名刺を交換できるのがなんだか楽しく、これをモチベーションにして様々な人とつながっていきたいと思う。まだ名刺を作っていない人は是非これを作るだけでも高揚するのでお勧めだ。それからカメラを向けられるインタビューは緊張してうまく話せないので、それっぽい人が近づいてきたら心の中で準備すべし、との教訓を得た。

 

いま「私」に求められること

最後に、私が感じた「私に何が求められているか」ということを述べて、全体の総括としたい。

この「私」とは、特に3つの属性をもつ。一つは、これからを担う若者であること。もう一つは、男性であること。残る三つ目は、慶應生であることだ。参加者に取材した「伝えたいこと」をまとめながら考える。

「大学生に伝えたいこと」を聞くと、特に熱心に語ってくれる参加者が多かった。それだけ、これからの社会をつくる若者への期待が向けられている。「差別の問題をしってほしい」この声が一番よく響く。若者だからこそ、今の問題を知り、学び、どうすべきかを考える必要がある。もちろんそれは年齢に関係なく必要だが、社会を変えるエネルギーを一番もつのはおそらく若者である。同じくして、「社会運動に意味がないと思っている人にも、社会がきっと変えられることを知ってほしい」「興味をもってほしい」という声が上がる。自分にできる範囲で学び考えてほしい、と多くの声をもらった。選挙も似た側面があると思うが、そもそもこんな活動をするのが面倒くさい、あるいは小さい規模でちょっと行動を起こしても特に意味がない、と考える人が多くいると思う。しかしどんなことも、それを構成するのは小さいものであり、少しずつその波が広がっていくことで大きいものを動かすことができる。こうして私がマーチに参加してみるずっと前からこの活動はあったはずで、少しずつ声が広がり、社会が動いた結果こうした運動が知られて、その結果今私がレポを書いている。興味を向け、何かそれに対して自分が思うところがあるなら可能な範囲で行動に移すことが、社会を変える力になるのだろう。そして、特に社会の上の方へ行く人が多いであろう慶應生としても、それが求められている。「慶應は6大学のなかでもこうした動きに腰が重い印象がある、でも社会で上に行く人が多いからこそ、こうした問題をよく勉強してほしい、目を向けてほしい」と語ってくれた参加者が非常に印象的で、よく記憶に残っている。男性の間でも、友達がハラスメントをしていたら声をあげてほしいと語ってくれた。「慶應生」という視点であまり自分を見なかったが、参加者からは「慶應の学生」への言葉をいくつかいただいた。これからの社会を率いる人材が育であろう慶應だから、期待もされるし、逆に不祥事を起こせば注目を集める。そうした期待を背負う私たちは特に、現代が抱える問題に目を向けなければならない。取材や話を交わした人たちから、おそらく多くの人が「私」に期待をかけていることがよく伝わってきた。

目を向けること、そしてよく学び考えること、「おかしい」ことに対して行動を起こすことが、いま「私」に求められている。それを受けて私たちが何を考えどう行動するかは、その後の話。まずは耳を傾けることが必要だと強く感じた。

 

おわり

最後にこのマーチに参加してみてよかった。別に最初から強い主張があって参加したわけではなかったが、純粋に社会勉強となったし、現状にもっと目を向ける機会を得た。もとから持っていたイメージはだいぶ変わった。興味があれば、またはなくとも一度活動に参加してみるのが経験として非常に良いのではないだろうか。

「まずは耳を傾け、自分の目で確かめてみること」

これをとても端的なレポートのまとめとしつつ、末筆としたい。

 

乙幡丈翔