毎年3月8日は国際女性デーだ。その起源は1904年にニューヨークで行われた婦人参政権を求めたデモにある。「ウィメンズマーチ東京」は、市民が実行委員会を作り、2017年からこの3月8日に毎年デモ行進を主催する。今回私はボランティアとして参加し、濱田すみれ氏をはじめ実行委員やボランティア、デモの参加者に話を聞いた。
今年度のウィメンズマーチの声明は、政府や自治体がパフォーマンス的に掲げる「女性躍進」というスローガンを問題視する。課題が山積みである中、スローガンが独り歩きしていて本気で取り組まれていない。「ジェンダー平等を本気で実現せよ」と取材に答えた。
実行委員の半数以上、ボランティアも多くが学生だった。「差別や抑圧のメカニズムを研究している」「大学でジェンダーや性暴力に関する授業を受けた」と、参加のきっかけの多くは大学での講義だ。講義を通じて現状を知り、まずは参加して声を上げようと思ったのだという。1人の男性が「男性だからこそ発信してきたい」と答えたように、男女問わず学生含め若い層のジェンダー平等への意識は変化してきているようだ。
平日の開催だったが、310人の参加者(主催者発表)の中には、社会人の姿もあった。未だ「男性社会」と揶揄されることの多い会社での女性差別は、私たち大学生には想像しがたい。1人は「職場でのあからさまな女性差別を何年も経験してきて…」と語った。社会運動や政治的な話がタブー視される日本で、デモに参加するのは決して簡単なことではないはずだ。声を上げざるを得ないような現状があるのではないか。「(すべての差別に対して)よりよくするというよりは、プラマイゼロに持っていって、話はそれから」と言葉を強める会社員もいた。
日本でジェンダー平等が議論されるようになった大きな契機は、ジャーナリスト伊藤詩織氏が自身が受けた性暴力を告発したことにあるだろう。初年度からウィメンズマーチに参加する女性は、「1番最初と2番目が伊藤詩織さんの時だったから、(規模が)すごく大きかった」と語った。しかし、世界経済フォーラムが昨年3月に発表した「ジェンダー・ギャップ指数2021」において、日本は156か国中120位だった。スコアは先進国の中で最低レベルで、ジェンダー平等が進んでないことは明白だ。一般労働者の女性の平均賃金は、男性の71.3%にしか満たない。キャリアプランも結婚・妊娠が前提で、育休・産休明けに職場復帰しても昇進・出世コースから外れるいわゆる「マミートラック」を選ばざるを得ない。実行委員の1人は、「女性社員だけを集めたキャリア研修があった。女性だけに考えさせても、パートナーがホワイトな働き方をしてなかったら結局被害を被る」と語った。また、女性のキャリア研修という名目に対しても、Xジェンダーなどの性別二元的な性自認に当てはまらない人の存在を想定していないと指摘した。
ジェンダー平等は、私たち大学生にも身近な問題だ。2018年度には、入学試験で女性受験者の得点を不正に操作していた問題が発覚した。このような現状を変えてきたのは、ウィメンズマーチ含め声を上げてきた人々だ。娘を持つ参加者は、「自分の子どもが、(中略)自分さえよければ良いのではなく、平等でない人たちのために動ける社会にしていきたい」と語った。
社会人がこのような活動に参加するのは容易ではない。先の実行委員は、大学生に向けて「参加するなら今のうち」という。「個人的なことは政治的なこと」で、私生活と政治性は区別できない。福澤諭吉は、「次の社会を作るマイノリティの集団」として慶應義塾を開塾した。より良い社会のため、塾生だからこそ社会問題に問題意識を持ち行動していくべきではないのか。
ボランティアとして感じたルポルタージュ
Web版では、いち学生、いちボランティアとしてウィメンズマーチに参加したルポも書くことにした。
まず、歩いている中で周囲の目を意識せざるを得なかった。平日とはいえど、300人もの人が18時の渋谷の街を1時間歩くと、多くの人の目に留まる。冷たい目で見られたり、カメラを向けられたりすることもあったが、意外にも笑いながらサムズアップしてくれる人も多かった。マーチでは、具体的な社会問題の現状は語られない。これくらいの軽いノリでジェンダー平等に興味を持ち、能動的に現状を調べたり、行動を起こしてくれたりすればいいなと思った。
参加者の連帯の強さも実感した。ボランティア含め、参加者の多くは1人での参加だった。掲載した画像のような大きなプラカードは重たいので、途中で交代して助け合っていたし、終わった後もしばらく残り談笑する人が多かった。「また今度!」と声を掛け合っていて、同じ「ジェンダー平等」という目的に向けて連帯する参加者の力強さを感じた。日本ではこのようなデモのイメージはよくない。声を上げるには勇気がいるからこそ、連帯する必要があると思った。
取材そしてボランティアをしていて感じたのは、人のあたたかさだ。誘導係をしたが、危険な歩き方(大きくはみ出すなど)はなかったし、呼びかけにも反応してくれた。取材にも積極的に応じてくれた。より詳しい人をわざわざ呼んできてくれたり、画像を見せてくれたり、たくさんの協力があった。飛び入りで取材をしたのは初めてで不安も大きかったが、喜んで答えてくれる姿に、参加者のジェンダー平等に対する熱意を強く感じた。今回の記事は、取材に協力してくれた方なしには書き切ることはできなかった。この記事が、その恩返しとしてジェンダー平等に少しでも貢献できることを願っている。
(山下和奏)
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