419万人。これは現在の日本で、心の病気により通院や入院をしている人の数だ。その中の多くが、身の回りに自分の悩みを聞いてくれる人がいない状況にある。そのような「望まない孤独」を抱えている人を救うために立ち上げられたのが、NPO法人「あなたのいばしょ」だ。今回は、「あなたのいばしょ」の理事長を務める慶應義塾大学総合政策学部4年生の大空幸星さんに話を聞いた。
NPO法人を立ち上げた経緯
悩みを一人で抱え込む人たちを救うために、大空さんはNPO法人を立ち上げるという選択をした。その理由には、「あなたのいばしょ」の理念が関係している。
「私たちは、望まない孤独をなくすためにチャット相談窓口を使い、頼れる人に確実にアクセスできる仕組みを作っています。受益者負担が成立しないこの活動は、NPO法人にしかできないことです。救急車を呼んでもお金がかからないのと同じで、このシステムには市場の原理が適用されません。私たちのチャット相談窓口は、社会におけるセーフティネットのようなものなのです」
また、在学中に起業をしたことについて、大空さんはこのように語った。
「起業をするのにタイミングは関係ありません。会社員になってから起業するという選択肢もありますが、学生のうちから起業するのでも良い。自分の中で何をやるかが決まっていたら、そこで迷う必要はないと思います。何かをやらなければ何も始まりません」
学生生活との両立
NPO法人の理事長を務める傍ら、現役の慶應生でもある大空さん。その学生生活についても話を聞いた。
「大学では研究会に所属し、孤独問題対策の研究を行っています。現役の警察官僚である先生のもとで、社会をより安全なものにするにはどうすればよいか日々考えています。
そして、SFCでは教員と生徒が共に多様な価値観やバックグラウンドを持ち、それをお互いに認め合っているため、何かを変えていこうとする人が活動しやすいです。もちろん起業をしている人も多いので、起業へのマインドはオープンな環境だと思います」
現在の活動について
2020年12月、「あなたのいばしょ」は孤独対策について当時の政府に提言書を提出し、孤独対策を担当する大臣や地域における官民合同の孤独対策地域協議会の設置などを求めた。なぜ政府に働きかけを行ったのか、大空さんは次のように語った。
「相談窓口は以前からすでに逼迫していましたが、コロナ禍で人とのつながりを保つことが難しくなったことで孤独の問題がさらに顕在化してしまいました。そこで相談窓口を拡充するのみならず、更に源流的なアプローチとして孤独対策に社会全体が取り組んでいかなければいけないと考えて政府に提言しました」
また、現在の政府の取り組みには改善が見られるものの、まだ解決すべき問題があると言及した。
「私たちの提言を踏まえて、担当大臣の設置や孤独に関する全国調査の実施が達成されています。一方で、望まない孤独をなくすための予防措置の観点や、調査をもとにしたエビデンスやデータを効果的に使った政策の実施にはまだ課題が残っています」
私たちにできること
もはや孤独問題は私たちにとって他人事ではない。コロナ禍で人と触れ合う機会が少なくなってしまった今、望まない孤独をなくすために私たちには何ができるだろうか。大空さんはこのように話した。
「とにかく人とのつながりを持っておくことが大切です。孤独は自らの社会への関わりの量と質が不足している状況で生じるものなので、双方のバランスを保つことが対策となります。人とのつながりは、必ずしも対面での交流に拘る必要はありません。対面でなくても、チャット相談などのオンラインツールを利用して、自分が何でも話せるような頼れる人をつながりの中で保っておくことが重要です」
そして大空さんは、自分が孤独でなくなったら、次に身の回りの人の孤独をなくすことの重要性を説いた。
「自分の孤独と身の回りの人の孤独の2つに対処する必要があります。自分の孤独については、誰かに頼るのが恥ずかしいと思わずに、回りの信頼できる人に助けを求めることで改善できます。しかし、回りの人の孤独は、自分に余裕があって初めて気づくものです。もし誰か回りの人でしばらく連絡をとっていない人がいたら、そのような人たちに声をかけてみてください。そういった小さな行動が、望まない孤独を密かに抱え込んだ人を救えるきっかけとなるのです」
(廣野凛)