とうとう来週から慶大入試が始まります。ラストスパートをかけている受験生の皆さんへ、河合塾の首都圏主要校舎で「早慶大世界史」の教鞭をとられている、沼田英之先生から応援メッセージをお届けします。慶大世界史の特徴や直前期の勉強法についても必見です。
――高校で世界史を学ぶ意義はなんだと思いますか
学習指導要領の中に世界史Bの指導目標として、「文化の多様性・複合性と現代世界の特質を広い視野から考察させることによって,歴史的思考力を培い,国際社会に主体的に生きる日本国民としての自覚と資質を養う。」とあります。私もその通りだと思います。
日本は島国なので、古くから外国との関わりが比較的少なく、歴史が日本だけで完結するところがありますよね。グローバルな世界で活躍できる人材を育てるためにも、世界のたどってきた歴史を示していくことが大事であるように思います。
――世界史に苦手意識を持っている学生もいますが、その学生が世界史にふれるきっかけはなんだと思いますか
まず、今の世の中に興味を持つことが大切です。海外のドキュメンタリー番組やドラマ、世界のニュースを見るのでも良いと思います。
グローバルな世の中ですから、今世界で起こっている出来事から視野を広げていき、その歴史をたどることで世界史に興味を持ってもらうことができるのではないでしょうか。
――慶大の世界史の問題の特徴としてどのようなことがあげられますか
それぞれの学部の個性がはっきりしていて、求める学生像を表しているように思います。
文学部・法学部・商学部の世界史はテーマ豊かな問題文が用意され、そこに空欄補充や一問一答の設問がつくられます。
文学部はずっと記述式を採用しています。それは文学をたしなむものの素養として、丁寧に知識を積み上げていくことの大切さを表していると感じます。
また、法学部は語群選択式の問題ですが、簡単には選ばせず、思考力を問うような問題が多いのが特徴です。
そして、商学部の問題は面白いですね。他大や他学部では、地域の偏りなく出題される場合が多いのですが、慶大の商学部は出題年のトピックスに応じた出題をしているのが特徴です。これは、やはり商いを学ぶ学部として、世の中の動きに敏感な学生を求めていることを表しているように思います。また、短い論述問題では、その知識を知っているかどうかではなく、その場で発想する力を問い、いい問題だと感じます。
経済学部は知識を運用する力を試す問題を何年も前から実践している学部です。資料・グラフを用いた問題や年表、論述問題などありとあらゆるツールを使って、正解にアプローチさせるという特徴があります。これもやはり、データの処理能力という経済学部の学生に必要な資質を求めているように思います。
――慶大の世界史というと難しいイメージがありますが、その中で基礎知識はどのように役立つのですか
むしろ基礎が重要で、基礎知識を駆使して、知らないことを答えさせる問題が多いです。ただ知っているか知らないかではなくて、消去法など「持っている知識を駆使して正解を導く」というように、論理性や思考力を求めているなと感じます。だからこそ難しいと感じるのでしょうね。
――生徒を指導するうえで気をつけていることはありますか
受験勉強全体の流れとして、「一問一答」で知識を詰め込む勉強法が主流になっているように思います。確かにそれも一つの勉強法ではありますが、慶大のように難関大の問題ではただ知識があっても解けないような問題が増えています。ですから、まず基礎知識を固めたうえで、その知識をつなげて、物語として歴史を理解することが大切です。そうすると応用も利かせやすくなります。難しい知識を教えるよりも「基礎知識を使えるように鍛えていくこと」を意識して、指導しています。
――現役生にとって、特に世界史は浪人生より短い時間で勉強しなくてはならないという点で勉強法に悩む学生も多いかと思いますが、どういった勉強法がおすすめですか
現役生の間では「夏休みが終わるまでに世界史を一通り終わらせなければ」という焦りのようなものが広まっているのも事実で、その心境はよく理解できます。ですが、自分だけでできることには限界がありますし、それに人間はコンピューターと違って、早くに詰め込むと忘れるのも早いんです。2月の入試にピークを持ってくるために、逆算して今やるべきことを伝える、慌てない勉強法を生徒には勧めています。
――直前期に世界史を勉強する際に意識すべきことはなんですか
直前期こそ、基本事項に立ち返ってほしいです。
いろいろな大学の入試問題を見てみると、世界史の問題には大きな3つの柱があると思います。①ヨーロッパ史、②西アジア中心のイスラーム史、③中国史です。これら以外にもさまざまな地域史はありますが、まずこの3つのそれぞれの中で手薄な単元や苦手な単元があれば、補強してください。
――直前期には過去問とどのように向き合えばいいですか
過去問を解くことは頭の訓練にもなりますし、とても大切です。特に慶大の経済学部の入試は過去問研究が有効で、手を変え品を変え同じようなテーマを出題してきます。
赤本を解くことと同時に単元ごとの基礎を確認していく、直前期はそのような時間にしてほしいです。
――大学入学試験を受験するにあたって、どのような心持ちで臨めばいいですか
とにかく「平常心」ですね。なかなか難しいことではありますが、自分の学校に行くような気持ちで、いつも通り起きてきちんと朝ごはんを食べ、試験会場に向かってください。日常と変わらない生活を送ることが大切です。
――緊張したときの解消法を教えてください
緊張すると顔がこわばってしまいますよね。そんなときは、とにかく笑ってください!表情筋が緩むと、自然と身体のこわばりがほぐれてきます。保護者の方や友達とくだらない話をするもよし、面白い動画やネタを準備していくのも良いと思います。
私も初めての生徒を前に授業するときは今でも緊張しますが、その前に講師室で同僚の先生と他愛もない話をして笑いが起きると、緊張が緩んで楽になります。
――受験生に大学入学後にぜひやってほしいことはありますか
世界に目を向けてほしいですね。海外にも行ってほしいですし、さまざまな人と出会って、多様な価値観を知ってほしいと思います。視野を広げていくと、いろいろな可能性が見えてくるのではないでしょうか。
できることなら、海外でも活躍の場を見つけてほしいですね。
――今年、慶大を受験する学生に向けてメッセージをお願いします
慶應義塾大学を受験される皆さんが、非常に大変な受験勉強をしてきたことは指導する側の私としても本当によくわかるので、大変な思いで受験当日を迎えていると思います。だからこそ、今まで自分が得た知識に自信を持ち、わかる問題だけをしっかり解いて、涼しい顔をして帰ってきてくださいね。応援しています。
【プロフィール】
沼田 英之(ぬまた・ひでゆき)先生
河合塾・世界史科講師
首都圏主要校舎において、「早慶大世界史」など難関私大世界史講座を担当。
早稲田大学・慶應義塾大学を中心に難関大学合格者を毎年多数輩出し、受講者から絶大な人気を誇る。
著書には「世界史基礎問題精講」(旺文社)、「慶應大世界史」(河合出版・共著)などがある。
(加藤萌恵)