新型コロナウイルスの感染が再拡大した今夏、各都道府県で緊急事態宣言が発令された。現在は全面的に解除されたものの、飲食業界では未だ苦しい経営状況が続いている。それは、多くの学生が行き来し盛況を呈する日吉の飲食街にとっても例外ではない。
日吉の居酒屋「日吉酒場」の様子
「これからまた感染者数が増えて、休業を迫られるとなると怖い」九州産直 うまい処 日吉酒場の店舗運営を任される曽雌大輔さん(32)は不安げに話した。曽雌さんの店は、昨年10月にリニューアルオープンをしたが、今年の1月半ばから休業に入っており、今年の10月に営業を再開したばかりだ。リニューアルオープン直後は、半額セールなどのキャンペーンもあり客足が伸びたものの、現在の売り上げは伸び悩んでいるという。
休業前は、緊急事態宣言下でも時短営業は行わず、酒類も提供していた。営業再開後、宣言は解除されたが、客足が完全に戻ったとは言えないそうだ。「休業中は協力金の申請をしていた。今のお客さんの入りを考えると、休業手当を貰っていた方が良かったのか、それとも営業を続けていた方が良かったのか、正直どちらともいえない」と話す。
日吉酒場の運営構成は、アルバイト6人、社員3人の計9人。それぞれの人件費に加え、コロナ禍ならではの出費もある。感染症対策の取り組みとして、入口や卓上に設置した検温器やアルコールスプレーだ。他にもメニューブックに透明なシートを被せ非接触を心がけたり、窓を全面的に開放したりすることで換気を徹底している。寒い時期は、ブランケットやヒーターを活用して室温を保っているが、電気代がその分かかってしまう。
「とにかく今はどのようなお客さんにも来てもらいたい」と曽雌さんは打ち明ける。客層は、学生が多く、慶大生もサークル活動の一環としてよく来てくれるという。
他店にはない日吉酒場の売りを聞いた。「まずは、いろいろなメニューが楽しめること。特にもつ鍋や馬刺しは好評で注文が多い。また、時間無制限の飲み放題や分煙対策も導入している。価格帯も日吉の中ではかなり安い方で、学生にとってはリーズナブルだと思う」
コロナ禍だからこそ、インターネットを利用した情報発信にも積極的な様子だ。日吉酒場は、ホットペッパーグルメによるポイント還元サービスを先日から実施し、公式のインスタグラムも始動させた。「どうしたらお客さんに満足してもらえるか、また来てもらえるかを常に考えている。お客さんが心配しないで飲めるような、そういうお店づくりをしていきたい」
カフェ「issui」の様子
オンラインサービスを導入している店は日吉酒場に限らない。慶大生もよく通うカフェissuiは、Uber EatsやWolt等の宅配サービスを活用している。カフェと銘打つものの、定食やアルコールなど幅広いメニューを提供している。昨年の緊急事態宣言時はオンライン注文が多かったが、感染拡大が落ち着いた今は売上にわずかな貢献しかしていないという。
緊急事態宣言下は、時短営業していたが、酒類が提供できていなかったために若干の痛手を負ったそうだ。現在の売上高は、昨年度と比較して1割増と回復しつつあるが、コロナ禍以前と比較すると2〜3割減であることに変わりない。若年層が多く、活気のある日吉。そのような学生街で、今後、新規顧客を獲得できるかどうか不安に思っているという。
また、店を営むうえで心がけているモットーとして、三方よしを挙げた。「売り手よし・買い手よし・世間よし」のことを指し、良い商売とはこれら三者が共に満足できるものだとする近江商人の経営哲学のひとつだ。
店内は、暖色の光に包まれており、落ち着いた雰囲気となっている。料理は、看板メニューのタコライスや焼きチーズケーキをはじめ、一品一品に優しい、家庭的な味が感じられる。売り手と買い手の満足はもちろん、学生街特有の賑わいを見せる日吉に、また異なる居心地の良さを与えてくれるカフェissui。ぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。
(野田陸翔)