われわれのクリニックを受診するスポーツ選手の腰部の障害については、腰椎椎間板症、腰痛症、腰椎分離症が多い。①椎間板の変性と基盤として、椎間板の機能に破綻を生じ、それらが症状の原因となったものを椎間板症と総称する。椎間板ヘルニア、シュモール結節、すべり症などを含むバスケットネームとしての広義の椎間板症と椎間板そのものにみられた変化のみが発症の原因となった場合の狭義の椎間板症がある。狭義の椎間板症は腰痛が主な症状であるが、椎間板ヘルニアでは、腰痛のみならず下肢の疼痛や運動・知覚障害がみられる。②明らかな発症機転(きっかけ)がなく、理学所見や画像検査にも異常所見を認めない腰部の疼痛は腰痛症と診断される。オーバートレーニングによって発症するものと考えられる。③腰椎分離とは、腰椎の椎弓の上下関節突起部分が断裂した状態で、その成因については疲労骨折とする説が有力である。腰痛が主な症状であるが、体幹後屈で疼痛が誘発されるのが特徴である。
クリニックではサポート体制を確立
これらの腰部障害では、保存療法で症状は改善し、選手はスポーツ活動に復帰できることが多い。保存治療には、スポーツ活動の休止、固定(コルセット)、投薬(鎮痛剤)、運動療法(ストレッチング、筋力トレーニング)、ブロック療法(硬膜外、椎間関節、圧痛点ブロック)などがある。腰痛症と診断された選手では、スポーツ活動の休止による症状の改善は極めて良好である。また、われわれの調査では、椎間板ヘルニア、椎間板症(狭義)、分離症の選手では保存療法によって、約80%の選手が半年以内にスポーツ活動に完全復帰することが明らかにされている。
腰部スポーツ障害を発症した選手では、スポーツ活動の休止によって症状が速やかに改善しない場合、脊椎に器質的損傷が存在する可能性があるためスポーツ専門医に相談することが勧められる。日吉キャンパス協生館のクリニックでは(http://www.hiyoshi-medical.com/)、麻酔科専門医(ペインクリニック)と整形外科スポーツ専門医が連携をとりながらスポーツ選手の早期復帰を目指した最新の治療(保存療法)を行っており、今後は慶應義塾高校・大学の体育会選手に対するサポート体制を確立したいと考えている。