20日午後4時より、西校舎ホールにて、慶大法学部教授の田村次朗氏による講演会(主催: 経済新人会)が開催された。田村氏は日本の交渉学研究の第一人者で、ハーバード大学国際交渉学プログラムアドバイザーを務めるなど、国際交渉の第一線でも活躍している。今回の講演は「リーダーシップを鍛える対話学のすヽめ」をテーマに、「リーダーシップとは何か、どうすれば体得できるのか」などを中心に講演が進められた。

「世の中には素敵な言葉がたくさんあるが、どれもはっきりとした意味が分からないし、明確な定義を教えてくれる人もいない。“リーダーシップ”や“対話力”などもそうした言葉の1つ」という話から、講演をスタートさせた田村氏。重要なものであるからこそ、意味がよく分からないままにしてはいけない、どうすればそれらを体得することができるのか、自身は大学生の頃から考えてきたという。

田村氏はリーダーシップの必要性を説明するにあたって、現代社会が抱える3つの課題「with and afterコロナ」「AIの進歩」「高齢化」に触れた。これらはいずれも正解のない課題である。しかし、私たちがこれまで学校で教えられてきたのは「1つの正解を導き出すこと」。1人で1つの正解を導くことに注力した結果、コミュニケーションが不足し、正解のない課題が山積しているのが、日本社会の現状だという。
こうした問題を解決するために必要となるのが、リーダーシップに求められる高度なコミュニケーション能力、すなわち“対話力”。高度なコミュニケーションを身に付けるためには、対話力を身に付ける必要があり、それを実践できるのが、授業内で議論が行われる「リベラル・アーツ教育」だ。海外の大学では授業中に積極的に議論が交わされているが、日本の大学では依然として講師が一方的に話すスタイルが根強く、こうした授業では対話力は身につかない。

次に、日本の組織の会議にありがちな特徴として、①序列が持ち込まれており、上司の意見に全員が賛同すること、②参加者が他者の意見を聞かず、自分の意見ばかり言おうとすること、の2点を挙げた田村氏。こうした不毛な会議を防ぐために重要なキーワードが「対話は3人がベスト」。これ以上の人数になると対話がうまくいかなくなってしまい、4人以上の対話では“社会的手抜き”が始まってしまうという。

対話のポイントに関しては、①相手の価値理解②お互いを尊重した主張、の2点に言及。前者は相手の考えに価値を見出し、後者は相手の考えを尊重しながら自分の考えも尊重することだ。相手と肯定的にコミュニケーションを取り、もし自分が相手の立場だったらどうだろうかと考える視点が必要になる。

対話力についての話は続く。田村氏は「対話の5ステップ」と題して、ある課題を解決しなければならないときには、以下のような進め方が重要だと説明した。


  1. SituationとStakeholder(状況理解と利害関係者)→ある課題を解決しなければいけないとき、そこにどういったミッションがあり、どんな利害関係者がいるのかを意識する。
  2. Perspective(視点)→会議などの場で声をあげない利害関係者の意図を読み取り、あらゆる意見を取り入れて客観的に考える。
  3. Issue(課題設定)→1と2について検討しながら課題を設定する。課題の間における相関関係と因果関係の違い(「単なる相互的な関係性」と「原因と結果という関係性」の違い)を意識することが重要。
  4. Creative option(選択肢の創造)→課題を解決するためのシミュレーションで可能な限り多くの選択肢を生み出し、ある選択肢を選んだときにどんな経過をたどるかを再びシミュレーションする。
  5. Decision making(評価と意思決定)→その選択肢に優先順位をつけ、意思決定をする。

この「対話の5ステップ」は“拡散”(=他者に少しでも多くの意見を出させる)と“収束”(=出された意見に優先順位をつけて選択する)の2つの要素から構成されている。こうした進め方ができることこそリーダーシップであり、「リーダーシップとは司会である」と、田村氏は端的に示した。

最後に田村氏は、「有名な『変化に適応できる者だけが生き残る』という言葉は、リーダーシップにも当てはまる。これからは権威型のリーダーシップから、適応型のリーダーシップへと転換しなければならない」と締めくくった。

田村氏の講演が終わると、会場からは大きな拍手が沸き起こった。聴衆はリーダーシップや対話力の必要性について、深く考える時間になったのではないだろうか。

 

(小山田佑平)