大学院校舎343A教室に足を踏み入れると、そこには外部の喧騒から一歩離れた和の空間が広がる。入り口から茶席に至る通路には飛び石が置かれ、その周りにはイチョウの葉が敷き詰められている。秋の日本庭園をほうふつとさせるこの装飾について、茶道会三田祭係の菱川怜菜さん(文3)は「343A教室の窓からは色づいたイチョウが綺麗に見えるので、景色とのイメージを統一できると思い取り入れました」と話す。
今年度の茶道会では、お点前の見学に加え、抹茶を点てる体験と、皇室御用達の菓子店で作られた和菓子を持ち帰ることができる。この和菓子もまた、イチョウの葉をかたどった一品だ。着物やスーツに身を包んだ1年生から3年生までの部員たちがこれまでの稽古の集大成としてお点前を披露する。流派は表千家・裏千家・武者小路千家・江戸千家に加え、上田宗箇流や金森宗家流といった武家茶道もあり、バリエーションに富んでおり見ていて飽きることがない。また、茶道具の使い方と抹茶の点て方、そして抹茶のいただき方について、茶道未経験者向けに本格的な指南が行われる。感染症対策により抹茶を飲むことはできないが、教室に飾られた掛け軸や花に加え、ペンマークの入った棗(なつめ)といった慶應茶道会こだわりの茶器について部員から詳しい解説がなされる。
茶道会の三田祭出展は実に2年ぶりとなる。コロナ禍での出展について、菱川さんは「お茶会の形式ではなく、模擬店やパフォーマンス等の案もあった」という。それでも一昨年度まで実施されていたお茶会の形式を完全になくすことはせず、飲食ではなく体験で楽しませる形式に切り替えたのは「コロナ禍以降に入部した後輩にとって、三田祭がお点前を覚える機会となってほしかったからです」と話す。茶道のお点前には複雑な手順があり、一朝一夕には覚えられない。それゆえ、三田祭という人前でお茶を点てる機会を設けることで、部員の稽古へのモチベーションを上げるねらいがあったという。
「コロナ禍をきっかけにできなくなったことがある一方で、かえってできるようになったこともあります」と菱川さんは語る。それは食品を直接提供しなくなったことで冒頭のように落ち葉を装飾とすることが叶ったり、抹茶を点てる体験型の出し物が考案されたりしたことだという。新型コロナウイルスの拡大で、喫茶文化としての茶道は逆風を受けると思いきや、茶道会は新たな方向へと舵を切った。
茶道会は新たな出展形式へと変革したが、未経験者を中心とする幅広い層に茶道に親しんでもらいたいという理念はそのままだ。肌寒くなってきた秋の日、大学院校舎343A教室へと足を運んでみるのはいかがだろうか。豊かに色づいたイチョウの葉と茶道会のおもてなしが、いつでもあなたを待っている。
(山口立理)