新型コロナの拡大が落ち着きを見せ始め、イレギュラーな形ながらも対面での開催を決定した第63回三田祭。今回は、三田祭と慶應義塾の伝統、そしてこれからの在り方について、伊藤公平(慶應義)塾長に話を聞いた。
三田祭は塾生一人一人がプレゼンター
「三田祭は、ただのお祭りではなく、塾生が自分自身をプレゼンする場です」
三田祭について、伊藤塾長はこう語った。
サークル活動、ゼミ、学業、体育会など、塾生はそれぞれに取り組んでいるものがある。
塾長は、「今までの人生全ての蓄積を集約し、自分をプレゼンする場所として、三田祭がある。塾生一人一人が、義塾の代表としての自覚を持って参加することが大切です」と語る。
三田祭の本当の意義は、塾生一人一人が自らを発信することだ。一人一人の発信の先に、色彩豊かな三田祭がある。
慶應義塾で出会った仲間と共に
生まれによって差別される時代、人々は平等であると説き、「次の社会を作るマイノリティの集団」として慶應義塾を開塾した福澤諭吉。
塾長は「福澤先生の開塾以来、慶應義塾は物事を変え、動かしていく志を持つ塾生たちが集まり、卒業後も社会に貢献して伝統を築いてきた。塾生には、ブランドとしての“慶應”ではなく、体制に対してもの申すことのできる志を持った人の集まりとしてのの誇り”が必要です」と語る。
志高く世界を先導する
福澤は、塾生と、卒業生である塾員をはじめとした、慶應義塾に深く関わっている人々の「義塾社中」の絆と協力、「社中協力」の理念を謳った。
塾長は「社中協力の理念のもと、志と世界への意識を元に、世界を先導する慶應義塾になって欲しい」と言う。
一方、塾長は「世界を先導することにだけ邁進してしまうと、時代の速い動きについていけない人々を取りこぼしてしまう。一見無駄と思える時間を過ごすことも大切で、仲間と高め合い、先導が空回りしないように気を付けながら世界の先導者となっていることが、理想的な塾生の姿です」とも語る。
人任せではなく自分の手で
慶應義塾について、塾長は「独立自尊の精神によって他者の尊厳を重んじ、自分たちの新しい社会を自分たちの手で作り上げる。慶應義塾は、社会を作る仲間と出会う場です」と語る。
独立自尊の考えのもと、よい仲間と出会い、よいコミュニティとなり、それがよい地域、国家、そして世界に繋がっていく。
慶應義塾を目指す受験生に対して、塾長は「ブランドや知名度ではなく、志を持つ生涯の仲間と出会うための場として、慶應義塾に入学して欲しいと思っています」と語る。
来春から「フル稼働」
新型コロナの感染拡大が落ち着きつつある現在、伊藤塾長は「現在の状況が続けば、慶應義塾は来春からフル稼働しようと思っています」と言う。
ただ、「フル稼働」と言っても、全ての授業を全員が教室で受ける、コロナ禍以前の対面形式に戻す訳ではない。
「例えば生物学の授業などで、学生を半分に分け、それぞれ別の場所にフィールドワークに赴く。その双方をオンライン形式でつなぐことで、それぞれの場所の植生や環境の違いをリアルタイムに学ぶことができます」と塾長は言う。
これからの時代、こうしたオンラインと対面形式のハイブリッドなど、「それぞれの授業に合わせた高次の工夫」が大切になると塾長は語る。
慶應義塾は、新しい社会を自分たちの手で作る生涯の友人と出会う場所として、開塾以来の長い伝統を築いてきた。
これからも、伝統を守りつつ様々な工夫を重ねながら、変化する時代に対応すべく、姿を変えていく。
塾長は塾生に対してこう語る。「慶應義塾を人生の好循環の起点として、志を持つ仲間と出会い、よい社会を作っていく先導者となってほしい」
(横川惟頼・満生周太郎)