「オンラインでないとできないことはしっかりやろうと思いました」。そう語るのは、慶應連合三田会大会にて実行本部のメンバーとしてデジタル化の統括を担当した高橋正登氏(グーグルクラウドジャパン合同会社 執行役員 パートナー事業本部長)だ。今大会の核となるデジタル化を牽引した高橋氏に、大会運営やその背景について話を聞いた。
求めたのは「デジタルならでは」
2021年度の慶應連合三田会大会「デジミタ」は、さまざまな要素で構成されている。大会のホームページや会場となるウェブサイト、ライブ配信を行うためのユーチューブや同窓会を行うためのスペイシャルチャット(スぺチャ)などだ。高橋氏はそれらのデザインを統合して、一つのユーザー体験になるように仕立て上げたという。
従来、慶應連合三田会大会は過去の大会の内容を引継ぎ、日吉のキャンパスで開催し続けてきた。大会のデジタル化は初めての試みであり、それだけ困難が伴うものであったという。
「とにかく一番苦労したのは、前例がまったくない中で『何をやるべきか』ということから決めなくてはいけないことだった」と高橋氏。やるべきことを決めるにあたって大事にしたことは、慶應連合三田会大会ならではのエクスペリエンスとデジタルならではの体験の二つであるという。
「従来の慶應連合三田会大会では日吉キャンパスで楽しむという体験に価値がありました。その経験を基本的には踏襲しながらも、デジタルでないとできないことは何かという議論をしました」
デジタルならでの体験の一番の特徴は、オンライン開催による空間的な隔たりがなくなったことだ。その点について高橋氏は次のように語る。
「今まで海外や地方にいて会場に行けなかった人たちが参加できるようになるだろうという想定はしていた。そういう今までにできなかったことは大事にしましたね」
追求した「こだわり」
高橋氏が大会のシステムを設計するときに心がけたことは三つある。それは使いやすさ、次年度以降への継続性、そして新しい技術を価値のある形で使いつつコストを下げることだ。特に、使いやすさにはこだわりをもって設計したという。
「今回は若い方たちだけでなくて、シニアに使っていただく可能性が高い。普段デジタルに慣れていない方でも直感的に使えるようにデザインしました」と高橋氏は話す。
デジミタはさまざまな新しい技術によって成り立っているが、その中でも重要なのがクラウドの存在だという。クラウドとは、インターネット上で必要なときに必要な分だけサービスを利用できる仕組みのことである。
7月に大会券販売が開始した際にパフォーマンスが低下してしまったことから、大会当日はクラウドのリソースを20倍にしたのだと高橋氏は振り返る。
「クラウドがなければシステムの容量を瞬時に増減することはできない。クラウドがあるからこそ、オンラインでの大会運営が可能になります」
義塾で身につけた「挑戦する精神」
従来の慶應連合三田会大会をデジタル上で再現をするという取り組みには、大会関係者の挑戦する姿勢が不可欠だった。高橋氏のチャレンジ精神は中学から大学時代を過ごした慶應義塾で身についたものであるという。
「慶應義塾は『今までになかったことを新しくやる』というのがモットーであり、僕たちはそういうDNAの中で育ってきました。なので、保守的になりすぎず、多少にリスクがあってもやっていこうと考えましたね」
続けて、高橋氏は慶應義塾での生活や学びをこう振り返る。
「知識というよりは新しいことにチャレンジすること、古いことにとらわれないことの大切さを学びました。また、自分の頭で考えるクセがついたような気がしますね。世の中を観察して、それに対して何をやるべきかを自分で考えるということを学びました」
最後に、高橋氏に三田会という組織について聞くと、嬉しそうに教えてくれた。
「まったく違う視点や発想を持っている仲間と利害関係なく議論して一つのことを一緒にできるのはなかなかほかにない組織だと思いましたね。僕は卒業以来慶應義塾と交わる機会がそんなに多くなかったのですが、この点を今回は再認識することができました」
(柿崎龍)
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