食欲の秋、スポーツの秋、芸術の秋、そして読書の秋。過ごしやすい秋の季節は、いろいろな趣味に没頭できる時期だ。なかでも、読書については、大学生のうちにたくさんの本に触れたいという人も多いのではないだろうか。今回はさまざまな本のジャンルの中でも古典文学の魅力について、平安時代の文学が専門の文学部国文学専攻栗本賀世子准教授に話を聞いた。

古典作品が持つ魅力とは

「もはや失われてしまった、はるか昔の世界を味わうための唯一の手段が古典作品を読むことであり、非日常に誘ってくれるものです。一方で、現代人にも共通する、人間のさまざまな感情が描かれているため、悩んでいるのは自分だけではないと孤独を解消することもできます」と彼女は語る。
また、当時社会の中心にいた、きらびやかで洗練された貴族たちの風流な世界を堪能できる点が平安時代の作品が持つ魅力だという。

 

准教授の古典文学との出会いと学生時代

古典作品は敷居が高いと敬遠されがちだが、彼女が古典作品に触れたきっかけは身近にある歴史漫画だった。「紫式部を主人公にした漫画で『源氏物語』の桐壺巻・若紫巻の話が紹介されていました。そのあらすじに心が惹かれて、続きを読みたいと熱望し、平安時代の物語にすっかり魅了されたのです」

栗本賀世子准教授(写真=提供)

そんな彼女は学生時代にさまざまな本に慣れ親しんだ。「古典作品そのものだけでなく、平安時代を扱った歴史小説も読んでいました。例えば、藤原道長と妻倫子を主人公とした、永井路子の『この世をば』(新潮社)です。また平安文学作品の翻案小説も好きでした。枕草子の世界を生き生きと描いた田辺聖子の『むかし・あけぼの』(角川書店)などがその一つです」

 

古典初心者におすすめの二冊

とはいってもやはり、古典作品を読むのはハードルが高いと感じる人も多いのではないだろうか。そんな初心者におすすめの作品、学生時代に読んでおいてほしい古典作品を彼女は紹介してくれた。「比較的平易な文章で書かれている『竹取物語』がおすすめです。あらすじは多くの人に知られていますが、かぐや姫が人間としての感情を身につけていく過程が丁寧に描かれているので、読めば大きな発見があるはずです」

 

また、源氏物語もぜひ読んでおいてほしい作品の一つだという。「その美しい風景描写、巧みな心理描写が有名ですが、特に注目してほしいのは一夫多妻制の社会においての妻の嘆きや苦しみに焦点が当てられている点です。千年も前に書かれたのにも関わらず現代人も深く共感できる内容です」

 

大学生という興味があることに没頭できる時期に、古典文学を読むという選択肢を一つ加えてほしい。その世界は昔から今に繋がる魅力に満ち溢れているのだ。

 

(佐藤ひなた)