7月27日、「北海道・北東北の縄文遺跡群」が世界文化遺産に登録された。本遺産は豊かな自然の恵みを受けながら1万年以上にわたって北海道・北東北の地に定住した、縄文時代の人々の生活と精神文化を今日に伝えている。北海道・青森県・岩手県・秋田県に点在する17遺跡で構成されているのも特徴だ。
遺跡群ならではの困難と取り組み
「なぜ北海道・北東北なのか、なぜ17遺跡なのかをどう伝えるかが悩ましい」。こう話すのは、青森県企画政策部世界文化遺産登録推進室の岡田康博氏。登録の根拠には、縄文時代の人々の暮らしがよくわかること、開発や景観悪化のリスクがないことなどが挙げられている。しかし、それを分かりやすく説明するのは容易ではなく、多くの人にいかに価値を知ってもらうかが課題だ。
登録にあたっては、この遺産ならではの苦労があったという。遺跡群が複数の自治体にまたがっているため、足並みをそろえるのに時間がかかったのだ。「遺跡を地域づくりの核としているところもあれば、そうでないところもある。ほかの自治体と仕事をするのは我々にとって、めったにない新しい挑戦で、体質の転換が求められた」と岡田氏は話す。
各自治体が持つ情報を一体的に発信するため、縄文遺跡群世界遺産保存活用協議会では、デジタルアーカイブを公開し、各遺跡の写真などが無料で使用できるように工夫している。(詳しくはこちら)本記事に掲載した遺跡の写真も、デジタルアーカイブで公開されているものだ。
同推進室の中澤寛将氏は、「ぜひ現地に足を運んでもらいたい。縄文時代から受け継がれてきた魚や山菜といった地域の食を味わい、温泉に入り、体全体で縄文に浸ったような気分になってほしい」と語る。遺跡を訪れれば、縄文人が目にしていたものと同じ景色を見ることができるだろう。
縄文時代の人々の暮らしを伝える
登録を受け、現地の人々は喜びの声をあげる。登録以前から三内丸山遺跡で活動してきた民間ボランティア団体、三内丸山応援隊の会長・一町田工氏は、「ボランティアとともに非常に喜んでいる。これからは子供や高齢者、海外からの観光客、障害のある人など、多くの人が訪れる。さまざまな人にしっかり案内したい」と意気込む。
同団体では、ボランティアを毎年募集しており、現在の登録者は100人ほど。毎年春に行われる研修では三内丸山遺跡の歴史や最新の発掘調査の成果などを学んでいる。
世界遺産に登録されたことで、これからは北海道・北東北という視点をもって、遺跡の魅力を発信する必要があると、一町田氏は考えている。「遺跡がどれだけすばらしいものであっても、その価値を伝えるのは人間。最後まで喜んで案内を楽しんでもらえるように勉強を続けていきたい」
はるか昔、縄文時代の人々の暮らしを現代、そして未来へと伝えていく遺跡群。この遺産に込められた思いを知るため、コロナ禍が明けたら、彼らの生きた世界を訪れてみてはいかがだろうか。
(菊地愛佳)