ボイストレーナーではないおしらさん

サブチャンネルでは、音楽のことに限らず、旅行の動画や犬の動画、友人とお酒を飲む動画など、さまざまなバリエーションの投稿をしている。中でも、人気が高いのがおしらさんのパーソナルな話だ。

チャレンジするときには、とりあえずやってみて、求められたことを続けていくというおしらさん。サブチャンネルでご自身のことを話した動画が好評だったので、LGBTQやHSPのことなどを発信するようになったという。

動画内で明るくゲイであることを公表したおしらさんだが、その裏には苦悩があった。「基本的にはカミングアウトするメリットはないと思っていて。男性として、『彼女いるの?』とか『どの子がかわいいと思った?』とか、異性愛を前提とした質問が凄まじい量投げかけられるんです」

信頼のおける親密な友人相手だったとしても、それでは疲れてしまう。ゲイの人の中には、コミュニケーションエラーをなくすために、しぶしぶカミングアウトする人も多いのだ。

ゲイを公表することで、発言の許容範囲が一気に広がるとも話した。ストレートの男性が言うとセクハラになることや、そんなこと言うなと批判される可能性のあることも、ゲイなら問題なく言えてしまうことがある。ゲイに対するイメージを利用しているともいえるが、自分の意図を勘違いされないためにも公表したという。

カミングアウトの形はもちろん人それぞれだが、自分らしく生きるためにカミングアウトするというのは矛盾している気がすると語る。自分らしくあることに、ゲイであることを公表して、他人からの承諾を得ることは必要ではない。

「ゲイであることって、自分のパーソナリティのごくわずかな部分でしかないんです。本当に自分らしく生きている人は、聞かれたら答えるけれど、自分から『私ゲイです!』とは言わない人が多いような気がします」

ネガティブのシェア

名前のつかないような日々の息苦しさについても、動画を投稿なさっているおしらさん。自分で何周も考えを巡らせて、やっと答えにたどりついた過程を形に残そうと、動画にすることもあるという。

一方で、おしらさんはハッピーのシェアはできないと語る。おしらさんのチャンネルの場合、動画を見ている人の約7割が、チャンネル登録をせずに見ているという。本当に自分のことを好きな人は、自分とハッピーをシェアできるかもしれないが、登録をしていない7割もの人はどうだろうか。

「知らない人が1億円当たっててもどうでもいいじゃないですか。たとえ知らない人でも、自分と同じつらい経験をして、そのことについて話していたら、見たくなるし、共感できると思うんです。だから、ハッピーはシェアできなくても、ネガティブのシェアはできるというのは自然だと思います」

慶大生は少し変?

おしらさんは「慶大生に伝えたいのは、結構特殊な環境で生きてますよっていうことを、早めに知っておくと選択肢が広がる、ということです。」と語った。

日本の中で、大学を卒業するのは50%ほどだ。その中でさらに慶大に通っている人というのは、経済的にもモラル的にもコミュニケーション能力的にも、トップだということではなく、少ない割合の人としかふれあってきていないのだということを強調した。このことを知っておくだけで、社会に出たときに、いろいろなことにチャレンジしやすくなるのではないかと話す。

「社会に出てから、自分が今までいたのは特殊な環境だったなと気づきました。全く仕事をしていない人とか、TikTokしか見てなくて、緊急事態宣言が出ていることも知らない人とかが平然といるんです。それでも、めっちゃハッピーに暮らしてるんですよ」

この状況を知らないと、自分で自分の首を絞めることになるとおしらさんは続ける。新卒で良い企業に勤めなければいけないなど、だれが決めたわけでもないルールに縛られ、窒息してはいないだろうか。

きっと、今の生き方以外に、もっとハッピーに生きられる方法はあるかもしれない。現時点で自分たちは恵まれているということを認識することも大切だ。そのうえで、自分の生きている社会は、全体からしたらほんの一部で、自分たちは少し変なのだと知っておくと、少し心が軽くなるかもしれない。

(古田明日香)