慶應義塾08年度決算の大幅赤字が明らかとなってから約半年。財政状況の悪化に伴い、慶應義塾創立150年記念事業は実施スケジュールの変更を余儀なくされている。
日吉記念館の建て替え延期により今年度卒業式の会場が変更となるなど、記念事業が塾生生活に及ぼす影響は大きい。しかし塾生にとっては、変動する記念事業の進捗状況や今後の見通しがわかりづらいのが現状だ。
今年5月末、塾長と常任理事が新たに就任し、現在の執行部が発足した。常任理事の渡部直樹氏は現執行部の方針について「我々も前執行部と同じ考えで記念事業を推進する。事業実施スケジュールの変更などはあるが、事業の理念自体は以前と変わらない」と話す。
記念事業の実施の是非について渡部氏は「すべて実施することが前提」と強調したうえで「財政状況を考慮し、事業期間(2005年より10年間)の延長も含め、事業実施スケジュールを変更する必要がある」と説明する。
記念事業は本来、総額900億円余りの規模を持つ。寄付金による250億円を引いた残りの650億円余りは、義塾の経常費からの捻出と借入により賄われることとなっていた。
しかし昨年秋以降の世界的な金融危機の中、株価が大幅に下落し、急速な円高が進行。義塾が保有する有価証券の時価評価は下落し、資産運用益も減少した。結果として昨年度の義塾の消費収支差額は269億円の支出超過(赤字)。義塾財政を維持するためには、今後100億円前後の赤字も許されない状況となっている。
また、ここ数年で借入金が急増。向後数年は、毎年の返済が25億円を超えることとなる。これ以上の借入増加は将来収支をさらに圧迫してしまうため、借入に頼ることも難しい。
記念事業の総額900億円のうち完成予定の事業に充てた300億円余りはすでに支払い済み。残りの事業を進めるにはあと600億円余りの支払いが必要だ。しかし、義塾財政を維持しつつ今から2015年までに支出できる額は、総額で210億円程度に留まるという。
常任理事会は義塾の厳しい財政状況を受け、従来の事業計画を「そのままのスケジュールで実施することは不可能」と判断。事業に優先順位を付け、新たな計画に従って事業を実施することを決めた。
「大学や一貫校に通う学生や生徒、児童の皆さん、病院の患者さんの安全確保をまず優先し、老朽化した建物の建て替えをできるだけ早く進めたい」と渡部氏は話す。塾生がより安全に利用できるよう、三田の西校舎はすでに耐震補強を終え、現在、日吉記念館の補強工事を進めている。
延期が決まっている日吉記念館の建て替え事業は、資金のめどが付き次第着工するという。工事の開始時期は、現段階では未定だ。渡部氏は「できるだけ早く着工したいが、現在、資金計画を策定している状況」と述べる。
ほかにも実施スケジュールの定まっていない案件は多い。
記念事業をすべて実施するという方針は固まっているものの、義塾の財政状況は厳しく、未定事項は数多くある。今後の義塾財政・記念事業の動向に注目したい。
(小柳響子)