「テレビが消える」。昨今、そんな刺激的なフレーズを見かけるようになった。新聞業界を始めとする既存のマス・メディアが崩壊の危機にあると指摘する声は少なくないが、ついにテレビ業界もそういった議論の俎上に乗せられる時代が来たようである。
今後テレビ業界はどのような変化を遂げるのか。連載企画「メディアの次世代」、今回はメディア・コミュニケーション研究所の菅谷実教授にこれからの展望を語って頂いた。
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「地上波のテレビ局について言えば、信頼できる映像メディアとして今後も一定の社会的役割を果たし存在意義を持ち続けるでしょう。しかし過去のような『超』優良企業として存続し得るかどうかは疑問です」
放送事業の未来に関して、菅谷教授はこう語る。確かにテレビ朝日など在京民放キー局の最近の決算を見ても、最終赤字や減益予想などが目立つ。日本経済全体の不況の影響を受けたと解釈するのが妥当だろうが、一方でインターネットの台頭にテレビ衰退の原因を求める見方もある。
インターネットの普及は、ドラマやアニメのような動画コンテンツをテレビ以外でも楽しめることを可能にした。違法・合法を問わず様々な動画がインターネット上で閲覧できるようになり、こうした状況が広告媒体としてのテレビの価値を下げていると言われている。
大手広告代理店などの調べによれば、テレビの広告比率はインターネット広告を現時点では上回っているが、インターネット広告の成長は著しく、数年後に両者の関係が逆転するという予想もある。
だからと言ってテレビとインターネットが、完全に敵対的な関係にある訳ではない。いくつかのテレビ局は、「NHKオンデマンド」や「第2日本テレビ」のように、過去の作品をインターネット上で提供する有料サービスや動画投稿サイトとの連携などを既に開始している。「本放送だけでなく、コンテンツの二次利用、三次利用からもお金をとっていこうとする傾向がますます強まる」と菅谷教授は予測する。
また菅谷教授は二次利用、三次利用の市場の拡大は「番組の製作現場にとって、決して悪いことではない」と強調する。現在のテレビ放送のシステムでは、下請けの番組製作会社にコスト面などでの負担が集中しているのが現実だが、テレビの本放送だけによらない市場の拡大はこうした下請けの現場に、より多くの利益を還元させる良い契機となり得るという。
だが、テレビ業界が検討すべき事柄はインターネットとの関係ばかりではない。時代に則した新たな法律の整備や変動する日本社会の人口構造への対応、視聴率偏重の番組製作風土の見直しなど、枚挙に暇がない。また深刻な不況に加え、地上デジタル放送移行に伴う莫大な財政的負担も、頭の痛い問題だ。
「テレビが突然この世から消滅するということはありませんが、広告収入が減っていくという現象自体は止められそうにありません。放送外収入をいかに獲得するかが課題となってくるでしょうね」
長年にわたって放送産業をとりまいてきた様々な環境が変化している現在、残念ながらテレビの未来はバラ色という訳ではないようだ。しかしそんな時代だからこそ、変化を脅威ではなく新たなビジネスモデル構築のチャンスとして捉えることが必要なのだろう。
(花田亮輔)