法学部法律学科の池田真朗ゼミが創立30周年を迎えた。池田教授が30歳でゼミを持ち始めてから今年で30年。約600名のゼミ生を送りだした。その間、池田教授が留学などで慶大を離れた際もゼミ2期生の片山直也教授らが代講を務め、一度も空白がないという希有なゼミである。
池田教授が初めてゼミを受け持ったのはフランス留学から慶大に戻った直後。パリ第Ⅰ大学でフランス民法の大家に師事した池田教授はその厳格な指導ぶりを自らのゼミでも実践しようと試みた。勉強不足のゼミ生の腕を掴んで「図書館で調べ直して来い」と廊下に引きずり出したこともあるという。
「何も知らずに入った1期生の諸君は災難だったと思う。16名いた1期生が半年後には12名に減ってしまいました」と笑う。
しかし、1年目が功を奏し、2年目以降はたとえ厳しくとも池田ゼミで学びたいという優れた学生が集まるようになった。「今、振り返って思うのは何事も初めが肝心ということ。池田ゼミの成功はあの1年目にあったに違いありません」。当時に比べると現在はだいぶ楽だというが、入ゼミ、夏合宿での1万字論文は創立当時から続けている。
池田ゼミの最大の目標は「自己発見」。一貫してゼミ生一人ひとりが最適な進路を見つけ出すことを目指している。この方針は池田教授が経済学部生ながら法学を専門的に学ぶことを決心したとき、恩師が背中を押してくれた経験に基づいている。「自分が恩師の言葉で人生を決めているから、ゼミ生にも肝心なところで間違わないアドバイスをしたい。そのために一人ひとりをよく見るようにしています」
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池田教授の専門は民法、金融法。特に債権譲渡の研究に取り組んできた。取引社会において、かつての債権譲渡は、債務者が多くの債権者から取り立てを迫られた場合、同じ債権を多重譲渡することで取り立てを免れる危機対応の方策だった。しかし、近年、債権譲渡が企業の資金調達の手段として多く用いられるようになり、研究の幅が一気に広がった。それに伴い、新法や国連条約の成立に関わるなど年々忙しさは増すばかりだという。
ゼミ創立30周年とともに自らも還暦という節目の年を迎えた。ゼミの野球では今でも4番を務めるスポーツマンで、「自分はまだ若いと思っているが、それはやらねばならない仕事がたくさん残っているということ。早く年相応のところまで仕事をしなければと思っています」と話す。
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10月18日には三田キャンパスで池田ゼミ創立30周年記念講演会が開かれた。1期生から30期生までゼミ生約120名を前に自らの30年にわたる民法研究と民法教育について講演した。その後開催された記念OB会には200名を超えるゼミ生が集まった。フランス留学時代からの知己である早大法科大学院長の鎌田薫教授も駆け付けるなど、ゼミ創立30周年と池田教授の還暦が盛大に祝われた。
池田教授はゼミ生のことを「預金通帳の残高」にたとえる。記念講演会、OB会を経て「自分の預金通帳の残高がとんでもない額になっている」と改めて感じたという。30年間、多忙を極めながらも常にゼミ生に対して真摯に接し続けた池田教授ならではの財産であろう。
(西原舞)