混迷を窮める現代において、メディア産業は大規模な変革の真っ直中にある。そんなメディアの「今」を考えることは、次の時代を生き抜くヒントになるのではないだろうか。今月から数回に渡って、新聞、テレビ、出版、インターネットのそれぞれの業界の今後に関して考えていく。第1回目は新聞業界について元毎日新聞社の河内孝氏にお話を伺った。
*  *  *  *
新聞業界は未だかつてない苦境に立たされている。2008年度連結決算では読売、朝日、毎日といった大手各社が軒並み赤字に転落。日本経済新聞社も今年8月の中間決算では連結決算公表を始めた2000年度以降初の赤字を経験した。
昨年のリーマンショック以後、世界経済は大きく衰退し、多くの業界が経営不振に陥っている。しかしそれを考慮に入れても、新聞業界の落ち込みは顕著だ。なぜこうした結果となってしまったのか。河内氏はその最大の理由に「広告収入の減少」を挙げる。
「日本の新聞社はその収益の6割を販売収入、3割を広告収入でまかなっている。しかし販売には多くの経費がかかるため、その収益性は広告に比べて低い。よって新聞社は再生産のための投資を行うために広告に依存してきた」
ところがその広告収入はバブル崩壊後から減少の一途をたどる。加えてインターネットの普及により、人々はわざわざ新聞を読まなくても簡単に情報を手に入れられるようになった。当然広告もネットに奪われ、新聞社は一層苦しい立場に追い込まれている。
このような事態を受け、新聞社は自社のホームページ上で電子版の記事を配信したり、動画を掲載したりといった対策を取り始めた。しかしそうしたネットとの共存の可能性についても河内氏はかなり厳しいと考える。
「英米のデータによると、新聞社の電子版の広告の売上は、紙面上の売上よりもはるかに低い。ウェブサイトのユニークユーザーが今より何十倍も増えて、それに応じて広告収入が増えれば話は別だが、なかなか紙で得ている収入を、電子版で得るのは難しい」
今年の2月に廃刊したロッキー・マウンテン・ニュース社。アメリカ中西部で展開し、かつてはピューリッツァー賞も受賞した伝統ある新聞社だ。ロッキー社は5年前、ネット時代に対応すべく、記者の数を2分の1に減らして紙面からウェブへと完全移行した。しかし、経営を存続させるためには、人件費をさらに半減させた上で、毎年40%の広告収入の増加が必要。これは到底達成不可能な目標で、廃刊へと追い込まれた。こうした例を見ても、現在の新聞社の組織形態を維持するには、ネットへの移行は必ずしも得策とは言えない。
1つの可能性として見えてくるのがメディア全体の業界再編だ。既存メディアの枠組みが崩壊しつつある今、業界再編は当然の帰結であって、今後さらに進行していくと予想される。しかし新聞社がそうした再編に加わる場合も、パラダイムシフトが必要となると河内氏は語る。
「新聞社はニュースとペーパーが可分であるという先入観から抜け切るのに時間がかかってしまった。しかし考えてみれば、ニュースを発掘して発信するというコンテンツバリューを創り出す作業と、ニュースをどういったコミュニケーションツールに載せるかといった作業は基本的には別のものだ。一度ニュースと紙を切り離してみて考えれば、色々な解決策が浮かんでくるはずだ」
世の中にニュースが溢れる現代において新聞社の存在意義とは何か。人にいかに価値ある情報を届けるかを模索し続けることが、次世代の新聞のモデルを形づくる手掛かりとなるだろう。
(金武幸宏)

河内孝
1944年生まれ。慶應義塾大学法学部卒。毎日新聞社会部、政治部、ワシントン支局、外信部をへて編集局次長。その後、常務取締役などを歴任し2006年退任。現在は慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所にて講師務める。著書に『新聞社―破綻したビジネスモデル―』。