〇武器であり、ガイドブックでもある。それを”慶應オリジナル”と銘打ったのはどうしてですか?

出井:「慶大生が慶大生に向けて作ったハンドブック」だということが分かるように、対象者を限定しました。今回の”性的同意ハンドブック”に限らず、性被害に関する活動や情報は、他の団体さんからも盛んに発信されています。

けれど今まで、「自分たちは読者層には当てはまらない」と思い、先例の呼びかけに耳を傾けない学生が多かったのではないでしょうか。そこで、自分と同じ大学の学生が、自分の大学内でデータを取ったと前面に押し出すことで、少しでも”自分ごと”として捉えるきっかけになればと考えました。

 

〇性的同意を”自分ごと”として捉える。確かに、事前知識がなくてもスッと入ってくる内容でした。

出井:制作にあたり意識したのは、”性的同意”という言葉が行き渡っていない日本において、初めてこの言葉を知った人にも分かりやすい文章にしようということ。ジェンダーやセクシャリティに関心のあるアクティビストと、現実との乖離は、よく指摘されるところでもあります。

そこで、今回の問題提起がいかに日常に即しているのかを分かってもらいたいと思いました。そのためにいい意味で敷居の低い内容にすることで、読者層の幅を広げました。正直、無関心層にまで届くには時間がかかるかもしれませんが、低関心層には届いたのではないかと思っています。

佐保田:文中表現も、ありふれた日常の描写を加えて、関心の少ない人層にも響くように心がけましたね。

 

〇文章やデザイン、配布形態からしても手に取りやすいです。反響はどうでしたか?

佐保田:ダウンロード数は6500を超えました。

 

〇すごい数ですね。その中の1は私です!

出井:「その中の1つが私」っていうのが、すごくキーワードだと思っています。ハンドブックのアピールポイントは、政府や教育機関が作ったのではなく、隣にいるような学生が作ったということです。

“性的同意ハンドブック”完成後、自分のSNSにアップしたら、友達が見たよっていう感想を送ってくれました。でもその子は特別ジェンダーや性被害に関心があるというわけでもなくて。それでも「友達が作ったなら」ということをきっかけに開いてくれた。

これが少し大きくなれば、「同じ慶大なら」「同じ大学生なら」というふうに、輪が広がっていくのではと考えています。やはり上から「作りました」と配られるよりも、隣から「作ったよ」と渡される方が受け取りやすいですよね。

「友達が作ったなら」という意外なところから反響が来たのは、すごく嬉しかったです。

佐保田:反響といっても、2種類あると思うんです。出井さんの友達のように、”自分ごと”として噛み砕いて受容してくれる人。それから、「こんなの作ったんだ」と流してしまう、大衆的な反応

私たちとしては、”自分ごと”として考える人の増加を重要視しています。大衆的な反応も含めた大義での反響というと、数字的に見ても大きかったですね。

 

〇大衆的な反応も多かったのでしょうか……?

佐保田:そうですね……”慶應”に”性的同意”という、社会的に人目を引きやすいキャッチーなワードが集まったのが主な理由だと思います。でも、議論を起こすという点では良かったかもしれません。数でいうと、ツイートが100万回以上見られました。

出井:特にTwitterでは、ハンドブックをよく読んでくれた“自分ごと”の反応がある一方で、批判的な言葉も多かったです。もちろん傷つきましたが、このことにより、活動に対する偏見や、一般認識の中で慶應というワードがいかに性暴力と結びついているのかが浮き彫りになりました。

その問題を感じた慶大関係者の中では、問題の再認識につながったのではないでしょうか。また、コメントによって、性暴力がいかに今まで触れられてこなかった問題かということが、数字として可視化されたとも思います。

これだけコメントされたということは、それだけ話し尽くされていない、議論されるべき話題であるということです。

佐保田:ただ残念なのは、慶大内の自治組織や賛同者の存在が認知されていないことでした。世間の認識に反し、慶大も変わろうとしているということをアピールする必要があります。それは学生だけの責任ではないと思いますね。

そして、私たちはハンドブックだけで性的同意について完全に解決できるとは考えていません。根本的な性教育や制度化など、様々なアプローチが必要です。

 

〇今後は、どのような働きかけを?

出井:一般社団法人「Voice Up Japan 慶應支部」は、本部の方針のもと、性的同意に関するイベントを進めていきます。入学式のオリエンテーションでは、性的同意について学生が一緒に学ぶ機会を設けます。

佐保田:学生団体「Safe Campus」は、啓発活動と制度化の2つを包括的に進めていきたいと考えています。啓発としては、今回のハンドブックのような、個人単位から必要な意識の導入。今度、アクティブバイスタンダーを表明するバッジのデザインコンテスト企画も開催します(学校から広めよう、アクティブバイスタンダ―

URL: https://safecampuskeio.wixsite.com/badgecontest

それから制度化は、関心の少ない大衆に向けたものです。例えば、学校全体でのガイダンス。これは大学サイドに働きかける形で実現していきます。

 

〇大学内に味方がいるのは嬉しいですね。

佐保田:はい、先生方や自治組織、学生団体をはじめ、多分みなさんが思っているよりも、相談できる味方は学内にたくさんいます。

出井:総合政策学部の小笠原和美教授は、性的同意ハンドブック制作にもご協力いただき、専門家の視点から完成度と信頼度を保証してくださいました。

 

〇恵まれた環境にいると、ひょっとして、性暴力が”自分ごと”だと思えないこともあるのでしょうか?

出井:「Voice Up Japan」は、”声を上げやすい社会に”というコンセプトで活動しています。性暴力をはじめ、避けられてきた話題に対し「こういうことに言及するのは初めてだけど」と声を上げる。個人単位では、すごく勇気のいることです。今回の性的ハンドブックにはいろいろなコメントがありましたが、少しでもムーブメントを巻き起こして、課題をオープンに語る空気作りにはなったんじゃないかと思います。

 

佐保田:この話題を取り上げることは、一つの自衛手段でもあります。性暴力に対して問題意識を持っていることをアピールする。例えば今回の記事をリツイートするなど、少しずつでいいのです。それだけで、自分を守る方につながってきます。全員に響かないからといって諦めるのではなく、小さな単位でもいいから、まず話題にすることから始めてみてください。

 

〇”性的同意ハンドブック”ダウンロードはこちらから

https://site-1988780-8082-8248.mystrikingly.com/

 

 

楊美裕華