新型コロナウイルス感染症の拡大により、テレワークが社会に浸透した。そこでよく使われるのがテレビ会議システム。なかでも、Zoomは圧倒的な普及率を誇る。Zoomが浸透した理由を、東京経済大学コミュニケーション学部教授で、慶大文学部非常勤講師である北村智氏に聞いた。

「個人的な意見ではあるが、Zoomが普及した大きな要因として、利用開始時の手続きの容易さが考えられる。アカウントが無くてもすぐにミーティングを始めることができるという点が大きいのではないか」と北村教授は述べる。ZoomはURLをクリックするだけでミーティングを始めることが可能だ。一方、同じテレビ会議システムのSkypeの場合、IDを取得している者同士でなければミーティングを開始できない。他のテレビ会議システムと比較してシステムにさほど詳しくない人でも始めやすいという点がZoomの強みだ。

一時的なミーティングを行う際の利便性の高さもZoomの長所だ。単発のミーティングを行う場合、他のテレビ会議システムを用いるのであれば、互いの連絡先を交換する必要がある。一方、Zoomを用いれば、連絡先を交換する必要が無く、URLを送信するだけでコンタクトが可能だ。

通信クオリティの高さもZoomの特徴である。Zoomは最大100人まで同時に画面表示させることが可能で、かつそれが通信負荷を高めることがない。北村教授は「頷きなどの動的な反応が、即時的に確認できる。これがコミュニケーションを円滑にする」と指摘する。顔の表情や仕草などの非言語情報は、コミュニケーションを取る際に重要だ。音声の遅延があったり画面が止まったりなどしてスムーズに情報伝達ができないと人間はストレスを感じる。

慶大は、昨年度のオンライン授業開始当初、Webexを導入していたが、通信トラブルが相次いだことによりZoomに切り替えた。高い通信クオリティで即時的に相手の反応を確認することが可能なZoomは、ストレスフリーな環境下に人々を置くことができる。

ブレイクアウトルーム機能は他のテレビ会議システムには無いZoom唯一の機能だ。「授業において、グループワークは対面授業であっても大きな課題だ。近年では授業に参加している学生が積極的に発言する機会を設けるアクティブラーニング型の授業が行われるようになったが、オンラインでこの形式の授業を行う際にブレイクアウトルーム機能は非常に便利だった」と北村教授は語る。特に、ランダムに参加者を割り当てることができる機能は教室以上に便利だったという。

ただし「普及したからこそ使われるというのが一番大きい」と北村教授は指摘する。Zoomの強みは多くあるが、普及した決定的な要素を特定するのは難しい。偶発的な要素もあるという。

「皆が使っているからという理由でZoomの使い方を覚えた人は多いのではないだろうか。利用者数が多ければ多い程、そのツールは便利になる。海外出張や学会をZoomで済ますことができるのもこれが理由だ」と北村教授は話す。Zoomはこの軌道に最も早く乗ったツールだと言えるのでは無いか。

さまざまなシチュエーションにおけるオフラインでの予定を代替することのできるZoom。果たして、今後Zoomに代わる新たなツールは生まれるのだろうか。代替的なテレビ会議システムが現れるまでは、Zoomを使い続けることが予測される。Zoomが今後どのような進化を遂げるか楽しみだ。

 

(大町 菜々美)