マスコミやソーシャルメディアへの不信感が強まるなか、新たなメディアの在り方を探る「新メディア時代を生きる」。連載の2回目となる今回は、慶大の卒業生であり、お笑いジャーナリストとして活躍するたかまつななさんを取材した。たかまつさんはお笑い芸人として活動する傍ら、「お笑いで社会問題を伝えたい」という思いのもと、さまざまな発信活動を行ってきた。2016年には、選挙権年齢が20歳から18歳に引き下げられたのを機に株式会社 笑下村塾を立ち上げ、全国の学校で社会問題についての出張授業を届けている。2018年には、ディレクター職としてNHKに入社するも、2020年7月末に退社。現在は時事YouTuberとして最新のニュースの解説や著名人との対談の動画投稿など、活躍の場を広げている。さまざまなメディアに携わってきたたかまつさんから見たメディアとはどのようなものなのだろうか。
YouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/user/takamatsuch
笑下村塾HP:https://www.shoukasonjuku.com
たかまつななさんのnote:https://note.com/takamatsunana
子どもたちにツケをまわさないために
――どのような問題意識があり、動画投稿や出張授業などの活動をしていますか。
今持っている意識としては、子どもたちにツケをまわしたくないということです。具体的に言えば、シルバー民主主義や予算における教育費の少なさなどが大きな問題だと考えています。
――なにが活動の原動力となっていますか。
たくさんあるのですが、やはり応援して下さる方の顔が浮かびます。取材をするということは、私が取材を受ける側に負担を強いることになります。それにもかかわらず私の取材を受けてくださった方が、私が困っているときに助けてくれたり、応援してくれたりするんです。それ自体とてもうれしいことですし、同時にそういう方の声をしっかり伝えなければと思います。
――どのように動画のトピックを選んでいますか。
自分のやりたいことと、やらなければいけないことのバランスをとって選んでいます。7月末にNHKを退所したので、そこでできなかったことをやっているというのもありますね。日々の活動の中でおかしいなと感じたことについて、オファーして受けてくださった方に取材をしています。
――NHKのお話が出たのですが、NHKに入所したきっかけと退所したきっかけはなんでしょうか。
入ったのは、霞が関で何が起こっているのかわかりたいという思いと、ジャーナリストとしての腕を上げたいという思いがあったからです。特に、政治に関してのニュースは報道するタイミングが大事だと思うので、どのニュースがいつ伝えられているのかを、ニュース番組を作る現場で知りたかったというのが大きな理由です。あとは、若い人に政治や社会問題を伝える番組を作りたいと思っていて、民放では収益モデル上厳しいので、NHKならできるんじゃないかと思って入社しました。ですが、10年かかって、ようやく自分の立ち上げた定時番組ができるかどうかだったので、それなら今すぐ若い感性で始めたいと思ったことが退社の第一の理由です。それから、YouTubeでの動画投稿を始めようと思いました。
(詳しくはたかまつさんのnoteのこの記事へhttps://note.com/takamatsunana/n/n3ffa69cfc4d5)
――最近だと『お笑い芸人と学ぶ13歳からのSDGs』という本を出版なさったと思うのですが、SDGsにおいて大学生に求めることはありますか。
※SDGsとは、2015年9月に国連で採択された、政府・企業・学校などが取り組む17個の持続可能な開発目標のこと。Sustainable Development Goalsの略称。たかまつさんは2020年9月に『13歳からのSDGs』という本を刊行し、SDGsについてわかりやすく解説している。また、全国でSDGsを楽しく学ぶ講座も行なっている。
SDGsの大切なところって変革することなんですよね。今の日本だと変化の基盤が全くないです。SDGsは目標であって、目標は立てるだけでは意味がないので、率先して行動してほしいです。みんなが大きなリスクを負う必要はもちろんないですが、副業や起業もやりやすい時代なので、本当にこのままでは危ないという意識があるのなら、今活動を行っている人のサポートからでも始めてほしいです。
100%の人が同意しなくとも、社会は変えていけるし、ひとりが行動を起こしたら、それが10人になり、10人が100人になり、どんどん社会運動をする人は増えていきます。そういうときに若い世代を鑑みない大人を無視して、改革の流れに乗ってほしいです。大学生には子どもや孫の世代に“ツケ”をまわさないために、一緒に頑張っていきましょうと伝えたいです。
見る人に寄り添うメディア
――動画を作る際に気を付けていることはありますか。
なるべく難しい言葉を使わないということを意識しています。それに加えて、難しい問題も切り口を変えて伝えることで、より身近に思ってもらえるのではないかと思っています。たとえば、森友学園の問題を、“政治上の一つの事件としてこういうことがあって、これは安倍さんが悪いのだ”というような伝え方をするのではなく、“あるラブラブな夫婦の日常が、公文書の改ざんを命じられたときから一変してしまう”というような描き方をしました。また、対談をするときにも、本題からはずれた固くない話から始めたりするようにしています。具体的には、石破さんとの対談では、石破茂は飲んだら楽しくないのかということを検証するというところからトークを始めて、恋愛の話をしたり、プライベートのことを聞いたりして、それから本題の総裁選などについてお話ししました。伝え方を大きなメディアとは異なるものにすることで、これまで関心を持っていない人にも興味を持ってもらえるきっかけになるよう意識しています。
あとは、当たり前ですが、他のメディアが取り上げていない、新しいことを拾うということです。他と同じことを伝えても意味がないので、たくさんリサーチをして、まだ伝えていないことは何か考えて、取材をしています。
――ニュースを伝えるYouTuberが増えてきましたが、たかまつさんのオリジナリティはどのようなところですか。
現場に取材に行っているということですかね。大手メディアが様々な事情から伝えられないことを、ネットメディアで伝えることが大事だと思うのですが、YouTubeで時事問題を扱っている人は、現場に取材に行っていない人が多いのではないかと思います。
私は社会問題解決型のYouTube番組を目指していますと言っているのですが、そのための映像が貴重なアーカイブになったり、誰かの心に寄り添ったりできると考えています。たとえば今だと、実際にいじめられた経験を持つ方からお話を聞いて、それを動画にしているのですが、若者の自殺率が高まる中で、無料で見られる場所に一時的な居場所を作ることが大事だと思っています。大きく社会問題の解決にはつながらないかもしれませんが、もう一日頑張ってみようとか、相談窓口に相談してみようとか、そう思ってもらえたら、少しでも自殺率の低下につながるのではないかと考えています。
私の動画の中でも、広く一般に見てほしいもの、教育関係者に見てほしいもの、報道関係者に見てほしいもの、などというように分かれていて、どの層に見てほしいかということは意識しています。
――以前動画で「自分が話しても響かない層がいる」とおっしゃっていたのが印象的でした。その現実に気づいたきっかけや、自分が働きかけにいくべき人と他の方にいってもらうべき人とを分ける、というような活動におけるすみわけの大事さに気づいた理由はありますか。
まず実際に、私が、ヤンキーが多い学校に行って、話をしても、振り向いてもらえなかったことです。昔やんちゃをしていた他の芸人さんが行ったらもっと振り向いてもらえたのかな、と思ったのが大きいです。
お笑い芸人をやっていて、何を言うかってそんなに大切ではないんですよね。誰が伝えるかの方が大事で、たとえば私がサンドウィッチマンさんのボケをそのままやっても面白くないんですよ。あんなに面白いネタなのに。それって差別とかではなく、私が女性だからとか、こういうキャラクターとして認知されているからとか、話す人の雰囲気やバックボーンも面白くなるには重要な要素なんですよね。お笑いだけでなく、どんな活動をしているときも自分のキャラクターや立ち位置は意識することが不可欠だと思っています。
(次ページ:今メディアに必要なこと、そしてたかまつさんにとってのメディアとは―。)