記者が興味を持っているものについて深掘りしていく連載企画「好きの1ページ」。第1回目となる今回は文房具をテーマに、文具ソムリエールの菅未里さんに話を聞いた。私たちの日々の生活に欠かせない生活必需品である文房具。そこには一体どんな「ひみつ」が隠されているのだろうか。
文具ソムリエールとは?
菅未里さんは文具ソムリエールとして、メディアでの文房具の紹介や、商品の監修、文房具に関わるコンサルティングまで、多岐にわたる仕事をしている。「文具ソムリエール」という名前は、利用者の好みや文房具同士の相性などを考えながら商品を提供することが、料理とワインの組み合わせを考えて提供するワインのソムリエに似ていることからつけたという。また、文房具は使うだけでなく、触り心地や香りなども、料理のように五感を使って楽しんでほしい、という思いも込められている。
「文房具に関わる仕事がしたいですって入社試験の時から言っていたのに、いざ配属されたらカーテンを売ることになっていたんですよ」。笑顔でこう語る菅さんは、7年ほど前に、文房具好きとして雑誌に掲載してほしいと手を挙げた。それがきっかけで文房具の部署に異動となり、以降文房具を紹介する仕事をしているという。
文房具は人と人とをつなぐ
菅さんは「面白い文房具を持っていると、会話のきっかけになる」と気付いてから、ずっと文房具が好きだと語る。小学生のころ、サッカーボールの形をした面白消しゴムを学校に持っていったところ、クラスメイトが話しかけてくれたのだという。この経験が菅さんを文房具好きへと誘った。
そんな菅さんが昔から愛用している文房具は、父に買ってもらったシャーペンだという。見せてくれたのは、その時に買ってもらったシャーペンと同じデザインのボールペン。とても細く、スタイリッシュなデザインで、当時のお小遣いで買うには少し贅沢なものだったという。「このシャーペンをきっかけに、もう一度クラスメイトと話せたことがありました。また、このデザインが今でも好きで使っています」
文具ソムリエールの視点
菅さんが文房具を選ぶ際に注目するのはビジュアルだという。日本の文房具は品質の高いものばかりだが、世界に比べて遅れをとっていたのがデザイン性であった。文房具にひそむ巧妙な仕掛けを詳しく紹介する方もいるが、菅さんは見た目に重きを置いて紹介をしているという。「文房具は使いやすいのが当たり前だという前提があってこそですが、使ったときに自分が楽しいと思えるかが大事だと思っています。華やかなデザインだったり、シックなデザインだったり、個々の好みに合うものがたくさんあるので、そこを重視しています」
一方で、売る側として文房具売り場を見るときには、棚割りと取り扱っている商品に注目するという。どのお店に行っても同じようなものが置いてあるように思えるかもしれないが、お店によって取り扱っている商品もそのボリュームも異なる。そこからお店にどんな人が来ているのか、また売り場の店員さんは何が好きなのかへと想像が膨らみ、楽しいのだと菅さんは語る。
変わりゆく文房具のトレンド
最近は外出自粛の影響を受け、手書きへの熱が高まっているという。数年前からバレットジャーナルという手書きの手帳が流行っていることに加えて、近年では手作りのノートや手帳、モダンカリグラフィーへの注目が集まっている。さらに、在宅勤務によりできた時間を、自分と向き合うことや、家の中で楽しむことに使おうという人が増え、手書きがトレンドになっているという。
また、人と会えなくなったことで手紙への需要も高まっている。大切な人に会わないことがやさしさである今の世の中で、メールやテレビ電話だけでなく、あえて手書きで一筆添えたいという思いの人が多くいるという。文具業界の中でも、手紙の書き方についてのページへのアクセスが増えているようだ。
ここ10~20年の時代の流れで考えると、リーマンショックが影響している。リーマンショック以前、文具メーカーは企業が社員に配布するための文具を作っていたが、リーマンショックによる不景気で文房具の支給を打ち切る企業が多くあった。自分で文房具を買うのであれば、少し良いものが欲しいという人が増え、文具メーカーの目を向ける対象が企業から個人に移ったという。これを皮切りに、少し高くてもデザインの良い文具が欲しいという流れに変わったと菅さんは語る。
また、女性の社会進出や晩婚化により、時間とお金に余裕のある女性が増え、文房具の大きなトレンドを創出しているのも最近の傾向としてみられる。万年筆のインクブームやシステム手帳の流行などに一役買って出ているのが30~40代の女性だという。
時代の潮流にのって、大きく変化していくのが文房具というコンテンツなのだ。
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