キャッシュレス決済は、消費者の利便性向上や店舗運営の効率化につながると注目を浴びている。日本におけるキャッシュレス決済について、金融・決済分野を専門とする帝京大学経済学部教授・博士(経済学)宿輪純一氏に話を聞いた。

 

帝京大学経済学部教授・博士(経済学) 宿輪 純一(しゅくわ じゅんいち)
1963年生、東京都出身。1987年慶大経済学部卒。同年富士銀行(現みずほ銀行)入行、1998年三和銀行(現三菱UFJ銀行)に転職、三菱東京UFJ銀行(現三菱UFJ銀行)企画部経済調査室等勤務を経て 2015年現職。専門分野は金融・決済・経営。著書に『通貨経済学入門(第2版)』(日本経済新聞出版社)、『決済インフラ入門[2020年版]』(東洋経済新報社)他。社会貢献公開講義「宿輪ゼミ」代表(15年目・会員 1万2,000人)。日曜劇場などドラマ金融監修・映画評論家。

 

日本におけるキャッシュレス決済

日本のキャッシュレス化は、2018年4月に経済産業省が策定した「キャッシュレス・ビジョン」によって推進されてきた。これは当時20%であったキャッシュレス比率を、2025年までに40%、将来的には世界最高水準の80%にまで引き上げることを目標とするものだ。

ここで注目すべきは、このビジョンの主体が経済産業省であること。キャッシュレス決済の中で、後払い型のクレジットカードは、割賦販売法に基づき経済産業省が担当している。すなわち政府が提唱しているキャッシュレス化は「クレジットカードをみんなで使いましょう」ということになる。

一方、キャンペーンなどの観点からスマホ決済が話題になっている。9月1日からは国のマイナポイント事業が始まった。所定の手続きを経た後、電子マネーやQRコード決済などを利用すると、1人最大5000円分のポイントが還元されるというキャンペーンである。対象者は「マイナンバーカード」を所有する人に限る。この事業は来年3月までであり、現在は日本におけるスマホ決済の浸透度が決まってくる重要な時期といって過言ではない。

 

世界のキャッシュレス事情

キャッシュレス決済に関して、よく日本と比較されるのが韓国だ。同国はキャッシュレス比率が90%を超え、世界で最もキャッシュレス化が進んでいる国の一つだ。この背景には、政府主導によるクレジットカードの利用促進策の実施があった。クレジットカード利用者への補助金20万円の支払いなどである。また、法律でも店舗でのクレジットカードの読み取り機設置が義務付けられ、キャッシュレス化が急速に進んだ。

一方、近年注目を集めているのが東南アジアだ。スマートフォンの普及に後押しされ、モバイル決済を中心としたキャッシュレスサービスが次々に提供されている。これらの国では銀行口座やクレジットカードの非保有者が多数を占める。そこで、普及率の高いスマートフォンを活用した決済が発展した。