連載|14人がオモウコト。
テーマ「夏休み」
(7)
かげおくり
私の夏は、いつも日陰にありました。
それは日光過敏症という、光線を浴びると皮膚が炎症を起こす、厄介な体質のせいでした。そのために私は、いついかなるときも、日傘が手放せなかったのです。
小さい頃は「肌が弱いな」くらいの認識で、帽子を被り日焼け止めを塗るくらいで済んでいたのですが、中学生の頃、症状が悪化しました。どうして、運動会の練習というものは、あんなにも時間がかかるのでしょうか。六月のはじめ、一日中炎天下にさらされた私の肌は、ぱんぱんに腫れてしまいました。その姿は、『ブラックジャック』に登場する枯れ葉男とでもいったところでしょうか。とにかく、鏡に映る自分の顔も見えないような状態だったのです。不幸中の幸いというべきか、発症したのは帰宅後で、一週間ほど学校をお休みしました。そんな恐怖体験がありましたから、太陽と私とが仲良くなることは、おそらくきっとないでしょう。
しかし、想像してみてください。制服姿に日傘を差している異様さを。
私は恥ずかしくてたまりませんでした。
体質を知らない人の前で傘を開くと、結構な確率でこう言われます。
「女子だね」
ぽんと投げられたその言葉は、熱く、熱く燃えて、私の頬を焦がすのでした。
「〇〇をしているから、この人は××だ」
「日傘を差しているから(美容に気を使っているから?)、この人は女子だ」
〇〇は、本当に××なのでしょうか。いやそもそも、ただの〇〇でいては駄目なのでしょうか。
そんな疑問ともやもやが、私の日陰の中で、時折渦巻いております。
今年の夏も、日陰です。
ただ、いつもとはひとつ——大きく違うのは、屋根の下にいるということです。
そして、日陰にいるのは、私だけではないということです。
太陽の下では見えなかったことが、たくさんあると思います。
ブルーライトを浴びていて、目がかすむこともあるでしょう。
そんなとき、影の残像が視界に侵入してきて、いじわるく問うのです。
「あなたは今年、どうして日陰にいるのですか。」
☆ペンネーム ぶー ☆学部学年 文学部1年 ☆ひとこと お読み頂き有り難うございました。好きなものはトマトです。