連載|14人がオモウコト。
テーマ「夏休み」

 

(2)
喪失

 

「いつもの夏と違うんだ」

どこかでそんな歌詞を耳にしたことがある。この夏を端的に表現するにはピッタリの言い回しだ。しかし、全面的に負の感情である。

 

もし、新型コロナウイルスがなかったら。そんな仮定された世界に意味などないと理解はしている。理解はしているが、想像を膨らませてしまう。それは仮定された世界に淡い期待を抱いているからか、単純に時間を持て余しているからかは不明だ。恐らく、誰もが今の魅力に欠ける日々を悲観的に捉え、希望に満ち溢れた世界を脳内に描いているだろう。

 

日吉キャンパスに通っていた日々を思い出す。ラッシュ時の東急東横線は地獄という言葉がよく似合う。このまま潰されてしまうのではないかと幾度となく悟った。1限はオンラインで受講できるようにすればいいのに。そんな傲慢すぎる自分が異常に混雑した車内では常に登場していた。

 

人間は常に不満を言いたい生き物なのだろう。自分が恵まれた立場にいても、その幸せに気付くことができない。挙げ句の果てに、文句まで垂らす。オンライン授業の実現を期待していながら、本当に実現したら、友だちと会えないと愚痴を言う。日吉キャンパスに通っていた日々。それこそが日常という宝だとその時は気付かなかった。傲慢すぎる自分に同情すらしてしまう。

 

失ってから気付く。定番すぎる言い回しで使いたくはないが、今ではよく分かる。新型コロナウイルスの影響がなくなって日常が戻ってきても、オンライン授業がよかったと友だちと愚痴を言うのだろう。そんな日が来るのが楽しみで仕方ない。面白味に欠ける夏休みという現在を過ごしているからこそ、過去を異常なまでに理想化し、未来に対する不完全な希望を抱いているのかもしれない。

 

☆ペンネーム あいうえお
☆学部学科学年 文学部人文社会学科2年
☆ひとこと マスクが暑さを煽る日々。