関根摩耶さん(総3)は、北海道の二風谷という地域で育ったアイヌだ。

彼女は慶大のゼミで学生としてアイヌについて学ぶかたわら、アイヌの魅力を伝えようと積極的に活動している。

昨年の4月からは、ユーチューブチャンネル「しとちゃんねる」でアイヌの文化や言語を発信を始めた。

彼女はどのような想いで自身の文化・言語を発信しているのか、何が彼女を動かすのか、率直な話を聞いた。

 

アイヌを知らないアイヌ

私が生まれた二風谷という地域は、7〜8割ほどがアイヌの血を引いていますが、現在ではアイヌ語を流ちょうに話せる人はほとんどいません。それは、前提としてあるべき自らの文化を学ぶ機会がないためです。

祖先にアイヌを持つ人たちも、今は皆さんと同じような授業を受けています。自らアイヌのことを学ぼうとしなければ、授業で学ぶ知識以上のことは得られない。そして、アイヌとは何か、という知識が乏しければ、アイヌのアイデンティティは持ちにくい。

つまり、アイヌの家系でも、この現代でアイヌと自覚するには、相当の努力が必要だということです。アイヌと向き合おうと思わなければ、避けることもできてしまいます。7〜8割ほど祖先がアイヌの二風谷でも、アイヌのことを語れる人はほとんどいないのが現状です。

 

学び伝え知った喜び

そうした状況の中、私の母方は、元来アイヌ文化を積極的に伝えてきた家系です。アイヌ文化の第一人者とも深い交流があります。父はアイヌではないですが、もともと言語が好きだったため、アイヌ語に関心を持って学んでいました。

私はそうしたアイヌのことを広く学べる、そして学ぶと褒めてくれる、喜んでくれる家庭で育ちました。とても恵まれていたように思います。身近な存在が一番喜んでくれるのがアイヌに関わっていくことだと気づいた頃から、「ただ安穏と過ごしていてはダメだ」と思うようになりました。たくさんの本や資料を読み、家族や知り合いのアイヌに話を聞きに行ったりして、アイヌのことを学び直しました。

アイヌ語教室に通い続けてくれている後輩の親御さんが、「摩耶が今アイヌ文化を楽しそうに発信し続けてくれるおかげで、アイヌのイメージが変わってきているよ」と言ってくれるのが、嬉しいですね。歴史・差別を気にしてきた祖父母が「アイヌの時代も変わったなあ」とアイヌが肯定的に捉えられていることを感じてくれているのも嬉しいです。そうした言葉を聞くと、活動してきて本当に良かったと思います。こうした身近な存在が、アイヌを伝えるモチベーションになっています。




アイヌを動かす社会を

世界全体で文化の多様性が叫ばれる中、特にそうした流れに乗り遅れている日本でしたが、オリンピックという文化交流の機会とともに、先住民政策に意欲的に取り組み始めます。

ただ、アイヌ全体がその変化に追いつけていない気がしていて。私のような、アイヌ文化を学ぶ機会に恵まれていたアイヌばかり注目されているように思います。

アイヌの血を引いていても、日本での教育を受けてきた人に、アイヌ民族として自分を表現してください、というのは無茶な要望かなと。

そのために、一部のアイヌの人が置いていかれている状況ができ、アイヌ全員で盛り上げていこうという風潮にはなっていないように感じます。

だからこそ、アイヌの素敵な文化や価値観を発信することで、アイヌを「かっこいいな」「うらやましいな」という声を作りたいと考えています。そうして社会の流れを変えることで、アイヌ自身が自分の文化に誇りを持ち、調べるようになってもらいたい。

だから私は明るく楽しくアイヌの文化を伝えるように、心がけています。

 

関根摩耶のポジション

私は、アイヌを知ることのハードルが高いと思っています。気軽に入っていけない雰囲気があるというか。

でも、アイヌに興味を持ってくれた人が、アイヌに難解さを感じて去っていってしまうのは、あまりにもったいない。

その窓口を広げていけるのが、私のポジションだと思っています。研究者や政府にはできない、バックに何もない、1人の大学生ができること。アイヌの人も、そうではない人も、ユーチューブはアクセスしやすい媒体だと思うんです。

そして私は、アイヌの人々にとっても、アクセスしやすい媒体でありたい。私は多くのアイヌの人にも、孫とか姪を見る感覚で、ユーチューブを通して「アイヌ」の魅力を知ってもらいたいです。

 

最後に

私が死ぬときアイヌがどうなっているか楽しみです。私は、アイヌは認められる民族だと信じていますし、価値ある言語・文化だと思っています。強気ですよね(笑)。

アイヌが人々の当たり前になること。アイヌを意識せずに通り過ぎることができる世界になったら嬉しいですね。同じ世界に多様性があるのが私の理想です。

 

(聞き手 金子茉莉佳)

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〈プロフィール〉

関根摩耶(せきねまや)

総合政策学部3年。現在ユーチューブチャンネル「しとちゃんねる」でアイヌ語の文化・言語を発信している。北海道の道南バスのアイヌ語アナウンスを務めている。平成30年度のSTBラジオでは、アイヌ語ラジオ講座の講師を務めた。