競技と学業
フィギュアスケート競技と学業の両立は、今ホットな話題である。名門イェール大学に通いながら好成績をおさめるネイサン・チェン選手の活躍が注目を集めているが、町田さんも文武両道を掲げ競技に取り組んだ選手の一人だった。「競技の賞金やアイスショーのギャランティーで生活できるのはほんのひと握りの人間だけです。その競技に打ち込むことは人生の財産となりますが、競技引退後の人生を支えるのは、学問によって身に付く力だと考えています。また体を動かし反復練習をすることだけがスポーツのトレーニングではありません。客観性と知性を身につけ自分のパフォーマンスを的確に分析することで、技の習得を早めることができるのですから、学業によって知性を磨くこともまた立派なトレーニングになります」
今シーズンのフィギュアスケート競技の見どころ
3月に行われる世界選手権。中でも注目して欲しいのはカップル競技であると言う。「世界へ視野を広げると、フィギュアスケートの進化を促しているのは、ペアやアイスダンスです。アスレチックな技術とアーティスティックな技術が矛盾なく共存している面白い分野ですから、ぜひ注目してみてください」
慶大生へのメッセージ
「知的好奇心を持って能動的にキャンパスライフを過ごしながら、将来の自分がどうありたいかを見定めて、その理想像に向かうための研鑽を積んで欲しいです」
フィギュアスケートは華やかな競技ではあるが、競技人生が短く残酷さをもはらむ、はかないスポーツだ。もう氷上で町田さんが見られないことを惜しむファンは多いかもしれないが、研究者というセカンドキャリアを切り開き、歩を進める町田さんから今後も目が離せない。
(山本南帆)
【プロフィール】
町田樹(まちだ たつき)
1990年生まれ。スポーツ科学研究者・元フィギュアスケーター。
2006年全日本ジュニア選手権大会優勝。シニア転向後はISUグランプリシリーズで通算4勝。2014年2月ソチ五輪に出場、団体・個人ともに5位入賞。同年3月の世界選手権大会では、銀メダルを獲得。同年12月に選手引退の後は、プロフィギュアスケーターとして自作振付による作品をアイスショーで発表し続けた。2018年10月にプロ引退。25年間のスケート(実演家)人生に終止符を打った。
一方、2015年より早稲田大学大学院スポーツ科学研究科に進学。2020年3月まで同研究科博士後期課程に在籍。専門はスポーツマネジメント、スポーツ文化論、文化経済学、身体芸術論。2018年4月より慶應義塾大学および法政大学にて非常勤講師も務めている。