岸博幸教授に聞く「オリンピック恐慌」 | 慶應塾生新聞

今年7月から始まる東京オリンピック。多くの人がその開催を待ち望んでいるが、閉会後の日本にどのような経済的影響を与えるか。

慶大大学院メディアデザイン研究科の岸博幸教授に話を聞いた。

オリンピック後にやってくる不景気

オリンピックが終わると景気は悪くなります。過去にオリンピックを開催した国の経済状況を見ても、これは当たり前のことです」と話す。

岸教授はその原因を二つ挙げた。

まず、オリンピック関連の経済的な需要が全てなくなってしまうことだ。開催の数年前から関連施設の建設などで多くの需要が生まれるが、閉会と同時にそれらは消失するため、景気は悪化する。

二つ目は、開催国の国民の盛り上がりがなくなることである。景気の「気」という字は、「気分」という意味も持つ。開催前から続いてきた、人々の高揚した気分がオリンピック終了に伴って落ち着くことで、景気は後退するのだという。

1964年と2020年の違い

東京では1964年にもオリンピックが開催されている。では、前回の東京オリンピックとはどのような違いがあるのだろうか。

1964年の日本は経済成長の途上にあった。開催前から景気は後退していたものの、東海道新幹線や東京モノレールの開通による経済的発展で、日本の国威発揚の面でも大きな意味合いがあった。

ところが、現代の日本のように経済的に成熟した国では新たにできることは少ない。その中で景気だけが悪くなっていくという厳しい状況が待ち受けるだろうと語る。

「オリンピック至上主義」の問題点

さらに岸教授は、オリンピックの成功が日本にとって最重要であるかのような風潮に警鐘を鳴らす。

「今の日本は、人口が減少しているにも関わらず、毎年30兆円もの財政赤字を出しています。そのほかにも、競争力の低下や地方の衰退など様々な課題を抱えています。こういった山積する問題よりもオリンピックの方に焦点が当たってしまっている現状に、危機感を持たなければなりません」

一方、東京でオリンピックが開かれることには多くのメリットもある。日本で生活していると異なる言語や価値観に触れる機会はそれほどないが、夏には多くの外国人が日本を訪れる。

グローバル化が進む現在の世の中では多様な価値観に接することが当たり前となるため、この機会に外国人と積極的な交流をすることが大切だ。

また、オリンピックは国を挙げた「お祭り」である。国民が一体となって楽しむことも重要なことだと岸教授は話す。

しかし、日本には解決されていない多くの課題がある。盛り上がることも大切だが、世論が「オリンピック至上主義」であることについて、若い人ほど疑問を持ってもらいたいとする。

 

オリンピック開催まであと5カ月。選手たちの活躍に日本中が興奮に沸くだろう。

しかし、大会を楽しみ盛り上げるだけに留まらず、閉会後やその先の未来について見据え、考えていくべきだ。

(村瀬巧)