2019年7月、東京ディズニーシーに新アトラクション「ソアリン:ファンタスティック・フライト」が完成し、大いに話題となっている。また、2020年4月には、東京ディズニーランドに「美女と野獣」などをテーマにした複数の大型施設から成る新たなエリアがオープンする予定だ。2022年度完成予定の東京ディズニーシー拡張エリアの建設も進んでいる。

このように絶えず変化を求める東京ディズニーリゾートの原動力について、株式会社オリエンタルランドの会長であり、慶大法学部卒業の加賀見俊夫さんに話を聞いた。

 

「非日常」を感じてもらうために

東京ディズニーリゾートでは、来園者のことを「ゲスト」と呼ぶ。時代が変化すれば、ゲストの求めていることも変わる。「型にはめて考えず、自由にニーズに応えていくためには、変化し続けなければならない。しかし、全部を変えてしまっては、ディズニーのテーマリゾートとしてのコンセプトが崩れてしまう」

東京ディズニーリゾートのコンセプトとは、「非日常」である。これは創設当初から一貫している。「どうすればゲストに非日常を感じてもらうことができるか、簡単に言葉で説明できるとよいが、そうもいかない」と加賀見さんは笑う。東京ディズニーリゾートが浦安市に建設された理由も、非日常を演出する要因の一つだ。都心から少しはずれた海沿いの土地だからこそ、日常から離れてリゾート気分を味わえる。

 

日本人の感性を大切にする

「近年の外国人観光客の増加により、多くのレジャー施設が外国人向けのサービスに力を入れているが、東京ディズニーリゾートは主に日本人の感性に合うものを提供し続ける。例えばフロリダのディズニーワールドと同じものを作ろうとしても、規模の大きさで負けてしまう。だからこそ日本にしかない、おもてなしによってオンリーワンのディズニーリゾートを作りたい」そう加賀見さんは語る。

例えば、東京ディズニーシーは実際に存在する街がモデルとなっているエリアが多いが、実際の街を単に再現するのではなく、日本人に受け入れやすいように「リ・デザイン」して変えている。「外国人観光客もまた、その『日本らしさ』を求めて、東京ディズニーリゾートに訪れているのではないか」と考える。

 

自主性のある人材

東京ディズニーリゾートを経営・運営しているオリエンタルランドは、慶大生からも人気の高い企業の一つである。加賀見さんの考える、求む人材とは何か。それは「自主性のある人」だという。自由な発想を持ち、かつ意見を積極的に言えるかどうかを重視する。オリエンタルランドには基本的にマニュアルがなく、上司と部下が互いに信頼し合っているからこそ、さまざまな判断を任せているそうだ。

東京ディズニーリゾートをさらに魅力的にするためのアイデアをアルバイトから募集すると、毎回約2000以上の案が集まるという。実際にアイデアが採用され、商品化に至ったケースもある。「東京ディズニーリゾートの運営の最前線にいるのは、現場のキャスト。現場で起こったことに対する判断は、現場のキャストに一任している」

 

学生時代の時間を有効に活用すること

最後に、現役の慶大生へ向けて、学生時代に経験しておくべきことを聞いた。「学業に加え、サークルや部活などの課外活動にも積極的に参加して仲間をつくり、多様な考え方に触れること。そして何事も頭ごなしに否定せず、まずはやってみること」。社会で何かを成し遂げるためには、夢を諦めない「信念」、そして失敗を恐れずにチャレンジを続ける「努力」、この二つが重要だと言う。

仕事を進める上では、必ず周囲の人を説得する場面があり、正しい知識に基づいた理論武装が欠かせない。また、理屈だけではなく直感力を併せ持っていないと魅力的な価値判断ができない。「大学は、『引き出し』―つまりはそれらの基礎となる知識や経験、そして人間関係を構築する大切な場。限られた時間を大切に、多くを吸収してほしい」

加賀見さんは、東京ディズニーリゾートを「永遠に完成しない場所」と表現する。変化し続ける東京ディズニーリゾートの前向きな姿勢の原動力は、「ゲスト」に対するおもてなしの心であった開園当初から変わらない「非日常」というコンセプトを徹底的に守り抜くために、東京ディズニーリゾートは今後も変化していく。

取材に応じる加賀見俊夫さん

(菱川怜菜)

 

プロフィール

加賀見俊夫(かがみ・としお)

1936年、東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。1958年京成電鉄入社。オリエンタルランドへ兼務出向ののち、1972年に正式入社し、東京ディズニーランドの開業に携わる。1995年に代表取締役社長就任後、東京ディズニーシー開業への陣頭指揮をとる。2005年以降は代表取締役会長(兼)CEOとして、株式会社オリエンタルランドの経営に尽力している。