9月25日、演出家・映画監督の福澤克雄氏(慶應義塾高校34期生)を講師として迎えた企画「異端のすゝめ」が、慶應義塾高校(以下塾高)日吉協育棟4階日吉協育ホールで開催された。

 

塾高では、福澤諭吉の『文明論之概略』に由来し、各界で活躍する一流の人間を「異端」と呼ぶ。

生徒会に所属する塚田匠さん(高2)は、塾高の理念の正統と異端に照らし合わせ、福澤氏を紹介した。「正統を極めたラグビー」として、幼稚舎のクラブ活動から大学の体育会まで一貫して取り組んだ福澤氏。高校日本代表やU23日本代表への選抜、そして社会人の日本一チームを破り、慶應を真の日本一に初めて導いたときの選手だったという話に、会場からは感嘆の声が上がった。

一方で「異端で勝ち取った『半沢直樹』の成功」として、福澤氏が演出を務めたドラマの『半沢直樹』(TBSテレビ・2013)を紹介した。塚田さんは、「半沢直樹」において、昨今のドラマの主な視聴層である30代女性に人気になりにくいとされるテーマへの挑戦と、昨今の他ドラマよりも約1・3倍速い物語の展開のテンポに着目した。

その後、生徒会長の上田貴大さん(高3)も加わり、トークセッションが行われた。
福澤諭吉の玄孫である福澤氏は、幼稚舎、普通部、塾高、大学と常に慶應で教育を受けた。「印象に残っているのは、小学校1年生から仕事について教わったこと」だと語る。
「仕事というものはたぶん辛いものだ。だから君たちは、好きでたまらない仕事を早く見つけなさい。そのために君たちは勉強するのだ」と先生から言われ続け、約50年たった今でも鮮明に覚えていると福澤氏は話す。映画が好きな福澤氏は、普通部2年の時に「スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望」を観て、映画監督になることを決意した。

福澤氏は、幼稚舎から続けてきたラグビーの経験が映画監督の仕事に生きているという。

「ラグビーでは、チームワークが求められる。お互いに選手が信頼し合い、見なくてもパスをくれると信じて走ることが必要で、チームがまとまっていないと勝てない。自然とチームをまとめるためにみんなが努力する環境の中で生きてきた。ドラマを作るときにもチームワークが重要で、監督だけが優秀でもできないし、周りのスタッフが優秀でないとできない」

上田さんが、チームをまとめる秘訣について尋ねると、「大義を持つこと」だと福澤氏は話した。

福澤氏が演出を手掛け、今年日本中にラグビー旋風を巻き起こした「ノーサイド・ゲーム」では、「日本の働く人々を元気にする」と「ラグビーワールドカップの日本大会を全試合満員にする」の二つの大義を掲げていた。

「ラグビー特集をやっても、ラグビー好きしか見ない。ラグビーを知らない人の興味を引き付けるには、ドラマしかないと思い、池井戸先生とお話しして作りました」と話す。

 

局の垣根を超えてテレビが一致団結することで、ドラマの放送を重ねるごとにチケットが売れた。「何かをしたいとでっかいことを言うと、人はついてくる。志です」と会を締めくくった。

(塚原千智)

 

福澤克雄氏=TBSテレビ所属の演出家・映画監督。演出を手掛けた代表作には、TBSテレビの日曜劇場枠の「半沢直樹」(2013)、「下町ロケット」(2015・2018)、「陸王」(2017)、「ノーサイド・ゲーム」(2019)など。2019年2月に公開された映画「七つの会議」では、映画監督を務めた。