「子育てと研究との両立が、こんなに楽しいものだとは思っていなかった」と語るのは、看護医療学部の宮川祥子准教授。現在2歳半の子どもの育児をこなしながら、情報分野の研究などに従事している。日々子どもと接することが、研究のヒントになることもあるというが、出産後も引き続き慶大に勤務している点について「運よく残っている」と表現する。確かにこれまで、出産・育児のために研究者としての道を断念してきた女性は、決して少なくないだろう。
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連載企画「慶應義塾における男女共同参画」も、今回で最終回。慶應義塾で女性研究者支援に向けて具体的な制度整備に奔走する、ワークライフバランス研究センターの方々を取りあげて、連載を締めくくりたい。
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慶應義塾に、ワークライフバランス研究センター(センター長・山下香枝子看護医療学部長)が設置されたのは、2008年2月。文部科学省の「女性研究者支援モデル育成」事業として採択された、慶大の「ソーシャルキャピタルを育む女性研究者支援」(期間:2008年7月1日―2011年3月31日)推進拠点としての設立だった。宮川准教授のほか、金子郁容政策・メディア研究科委員長や、経済学部の駒村康平教授など20数名がメンバーとして現在参加している。
同センターのパンフレットには「仕事と家庭生活を両立できる支援体制を全学規模で構築」という文言があるが、これは単なるお題目だけに終わっていない。妊娠・育児中の女性研究者の研究補助員として大学院生などを雇用する研究業務支援プログラムや、女性研究者向けの会員制コミュニティサイトの設立(2009年6月現在21名が登録)、NPO法人フローレンスと提携して行われる病児保育支援など、様々な具体的取り組みが慶大内で既にスタートしている。同センターの島桜子特別研究准教授は、「これらの取り組みを男女共同参画室と連携して慶応に根付かせていきたい」と語る。
SFCでは、学内の施設を利用した一時預かり保育が計画されており、これに伴い学生などを対象とした「キャンパス内保育サポーター(有償ボランティア制度)養成講座」も実施された。6時間の講義と3日間の保育園実習から成る養成講座には、SFCの学生に限らず誰でも参加可能。「この活動を通じて、子どもであっても一つの人格として尊重すべき存在であることを実感してもらいたい」と、指導にあたる同センターの上田七生特別研究助教は話す。同様の取り組みの他キャンパスへの拡大も、現在模索されている。
一連の取り組みについて、宮川准教授は「単に困っている研究者を助けるというものではなく、慶應義塾が誰に対しても働きやすい大学になることで優秀な人材を引きつけ、その競争力を付けることが目標」と語る。
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6月12日より、慶大大学院メディアデザイン研究科(KMD)は、ザ・ゴールドマン・サックス・グループ・インクが推進する「10,000 Woman(1万人の女性)」プログラムに、日本の教育機関として初めて加わった。本プログラムは、途上国の女性などに対してビジネス・経営学などの学習機会を提供するもので、今回の参加は高く評価されるべきだろう。だが、海外の女性支援に貢献する慶應義塾自体が、組織内部で働く女性にとって冷たい機関であってはならない。
まだまだ人々の働き方を巡る問題は多いが、さらなる慶應義塾の取り組みに期待したい。
(花田亮輔)