2019年6月3日、慶應義塾のシステムデザイン・マネジメント研究科(SDM)開設10年を記念して、河野太郎外務大臣によるODAについての講演会「河野太郎、ODAを語る」が催された。会場となった三田キャンパス北館ホールは、多くの塾生によって満席となった。神武直彦SDM教授がモデレーターを務め、講演後には河野氏が多くの参加学生からの質問に答えた。

 

ODAとは

ODAとは開発途上地域の開発を目的とする、政府などによる国際協力活動のことを指す。財源には国民の税金が充てられている。

ODAの形態は3つに分類される。低金利かつ長期でお金を貸し、インフラ建設に充てられる円借款、無償で病院などの設備の投資資金を提供する無償資金協力、そして最先端の技術を途上国に提供する技術協力の3つである。このうち、無償資金協力と技術協力が中心になっている。

 

なぜODAを行うのか

バブル崩壊後、長期のデフレで財政赤字が増大しているのに関わらず、なぜ税金を財源とするODAが未だに行われているのか。疑問に思う人も多いと思うのではないだろうか。河野氏は主に2つの理由があると語った。

1つ目は、困っている人がいる中で、豊かな生活を送っている私たちが手を差し伸べるべきだという考えである。

一日あたりの生活費が200円前後だという人は、全世界で40億人にも上る。水や食料が足りないばかりでなく、教育を受けたり働いたりすることも容易にできない人たちに向けて、キャンプを建設して私たちが支えていく必要があるという。

2つ目は、日本もかつて世界の支援を受けていたからだ。戦後、日本はアメリカや世界銀行から無償資金や借款を得ることによって、小学校の給食開始や東海道新幹線開通、黒部ダムの建設を成し遂げてきた。一回助けてもらった以上次の国を助けるべきだという考えが、ODAの根底にはあると河野氏は語る。

例えば、チリにおけるサーモンの養殖は日本の援助によって開始され、今ではそのサーモンが日本の回転ずしのネタとなっている。これ以外でも、発電システムの構築や海洋のプラスチックごみ問題対策なども行っている。

 

日本のODAが目指すところ

では、最終的には日本のODAは何を目標にしているのか、それは「人間が生きる上での安全保障」である。国の安全をどう守るのか。

その国の一人一人が健康で文化的な暮らしができているのか。生活のための水や栄養が足りているのか。教育がしっかりとなされているのかどうか、ということである。

具体的には、援助に資金がかかってしまうインフラ整備に代えて、発展途上国における、民主主義に裏打ちされた法律や制度の構築を援助することがあげられる。

インフラ開発においては、透明性をもって計画を立てることが重要であり、国際的なルールとして定められているという。メンテナンスコストの増大によって借りた資金を返せなくなり、結果として貸し出した側の国に施設の運営権が移ってしまう事例が、あちこちに生じている。

日本は、質の高い発展、国際的なルールの基準化、そしてビジネスと債務の持続可能性を考慮することを重視する姿勢をとっていると河野氏は話す。

 

日本のODAの現状とこれから

果たして、国際社会でこれらのODAがどのように評価されているのか。河野氏は、他国における日本への信頼は絶大なものだとした。オリンピックや万博の誘致、安保理の改革などにおいて、「日本に恩返しをしたい」と支持する国が多いという。

こういう事情を鑑みるとODAを完全にやめるのは厳しい。その中で、どう効果を最大化するか、投資基準を判断する必要性が出てきている。財源が限られている中で、資源を上手に活用し、何をどうやったら達成できるのかを考え、結果にコミットできるようなODAのあり方を検討していくことが重要だと河野氏は話す。

 

未来の若者に向けて メッセージ

河野氏は、塾生に向けて「世界標準で戦ってほしい」とメッセージを送った。今から10年後には、企業の取締役会は英語で行われていると想定される。そのような社会において、世界で働くことを意識していくことが、世界標準の人材に成長する上で大事だとした。

また、英語を学ぶ際にはその背景にある教養も併せて学ぶことが、世界で働くうえでは重要だとした。英語に加え、フランス語や中国語など、実用的に使える他言語の語学スキルも必須になってくるという。

最後に、河野氏はこのように締めくくった。

「今やビジネスだけではなく、学術研究やアートなどにおいても、海外でないと始まらない。学生にも世界標準で戦っていくのを目標に頑張ってほしい」

 

講演する河野氏
神武直彦SDM教授と河野氏