今回のギモン
「三単現のs」という言葉に聞き覚えがあるだろうか。中学・高校の英語の授業で一度は耳にしたことがあるはずだ。「三単現のs」とは、英語においての主語が三人称単数で動詞が現在形の場合、動詞に-sや-esを付ける文法事項のことを表す。
ではなぜこのルールは、主語が三人称単数の場合に限られるのだろうか。慶大文学部の堀田隆一教授へのインタビューを通じて、「三単現のs」への疑問に答えていく。
英語の「宇宙観」を知る
この現象について考えるには、まず英語独自の「宇宙観」を理解する必要がある。
英語では、話者を取り巻く世界を話者に応じて3つに分ける。まず、話者つまり主語が自分自身を指す場合を一人称とし、主語が相手を指す場合を二人称とする。さらに、主語がそれ以外の事物を指す場合は三人称となる。
この3つの世界に応じて、用いられる動詞にも特別なマークが付けられた。一人称や二人称に付く動詞の語幹には母音やnの音が付く。三人称に付く動詞の語幹にはsなどの強い音が付いた。例えば、「love」という動詞の場合、語幹を「lov」とし、主語が一人称なら「love」、二人称なら「loven」、三人称なら「loveth」のように、主語に合わせて動詞を活用していた。
英語の「風化」とは
先述したように、かつては三人称単数だけではなく、一人称や二人称に用いられる動詞にも特別な語尾が付けられていた。ではなぜ、現在それらの語尾は使われなくなってしまったのだろうか。
この現象の原因は、英語の「風化」にある。「風化」とは、時の流れに伴った言語の変化を指す。そしてこの変化は、交易や征服の歴史の産物であり、言語が他言語との混ざり合いを経験し、人々にとって話しやすい言葉が残った結果である。
英語においては、時の経過と共に、一人称や二人称に用いられる動詞の母音の語尾は消えていった。一方で、現在は三人称単数に用いられる、動詞の-sや-esの語尾が生き残った。ちなみに、交易の機会に恵まれた海沿いの地域の方が言語における風化現象が発生しやすく、これはイギリスにおける英語にもあてはまる。
おわりに
グローバル化により、ますます多くの話者を獲得した英語は、今後も新たな風化を続け、変化していくだろう。英語の変化とその奥深さに、今後も目が離せない。
(久保田佳怜)
〈次回のギモン〉
第2回は、コーヒーについてのギモンを解き明かす。コーヒーは世界中で愛飲されている。しかし、子どもの頃は苦くて好きではなかったという人も少なくないだろう。一体いつの時期からコーヒーをおいしいと感じるようになるのか。
身近な嗜好飲料についての謎を取り扱う。