野澤さん×ラグビー ラグビーをやっていてよかった

―ラグビーとの出会いは?

小学校5年生の時です。慶應義塾幼稚舎では5年生からクラブ活動が始まるのですが、運動ができる子はラグビー部に入るという流れがあって入りました。

―大学時代を振り返って

特別悩むことなく過ごせたかなと思います。大学2年生の時、慶大ラグビー部は創部100周年を迎えました。その節目の年に、大学選手権大会で優勝したんです。ウイニングランを終えて金沢さん(現慶大ラグビー部HC金沢篤氏)と抱き合ったときに、ラグビーをやっていてよかったと思いました。金沢さんとは今でもよく飲みに行く仲です。

4年生で主将になったときは大学選手権準決勝で早大に負けてしまい、結果を残すことができませんでした。その時は、自分の力の無さを実感しました。

―プロの道を選んだ理由は?

大学3年生の時に日本代表に選んでいただきました。その時出会った代表選手の多くが、神戸製鋼というチームに所属していたので、彼らに誘っていただきました。

―日本代表として戦うことの意味

試合前に国歌を歌うのですが、代表の上着を着て国歌を歌うことで国の代表なんだと誇りを感じました。

―引退を決意したきっかけは?

けがです。ひざに力が入らなくなってしまいました。それと30歳手前ということもあって、「家業の方(山川出版社)にそろそろ戻ってこないか」と言われてもいましたので引退を決断しました。

野澤さん×慶應 ハングリー精神足りないのでは

―コーチ就任の経緯は?

慶應が日本一になった時の監督に声をかけていただきました。慶應義塾高校(塾高)で2年間コーチを、大学ではヘッドコーチを2年間務めました。

―指導者という立場から見た慶應ラグビー部の印象は?

頭でっかちですかね。知識はすごくあって、トップリーグの選手よりラグビーをよく知っていることもある。だけど、空いてないところをこじ開けていくようなハングリー精神が足りないなと思いました。7年間神戸でプレーをしてから慶應に戻って、理屈は合っているけど迫力が足りないなという印象を持ちました。

野澤さん×W杯 15人が一つの生き物のように動く瞬間

―ラグビーを見ない若い世代に向けて

みなさんが思っているよりも世界的に注目されている大会だということを知ってほしいですね。ラグビーW杯は世界三大スポーツ大会の一つでもあるんです。五輪は東京の大会ですが、W杯は日本の大会です。各代表はキャンプ地を2か所必ず回るので、実家があるなど、何かしらつながりを見つけると応援したくなると思います。

―どこに注目して試合を見たらよい?

まず女性はイケメンの選手を探すことですかね(笑)。男性にはラグビーがコンタクトスポーツでもあることに注目してもらいたいです。身長2メートル・体重120キロを超える選手たちがぶつかり合う迫力には驚くと思います。

パブリックビューイングで海外の人たちの盛り上がりを体感するのも面白いと思います。日本とは違い、南半球やラテン系の方は地響きがするような盛り上がりを見せます。

―自国開催への思いは?

地方をまわると、まだ盛り上がりに欠けると感じることがあるので、もっと盛り上げていきたいです。1スクール1カントリーといって、学校ごとに国を決めてその国を応援するような、子どもを巻き込んだ新しい動きができればと思います。

―日本代表についてどう見ている?

日本は手先が器用で細かい技術を持ったチームだと思います。ニュージーランド出身のコーチが就任したので、キックで相手を崩していく攻撃的なスタイルになると思います。

―ずばり日本の順位は?

ベスト8。アイルランド戦はチャレンジングな試合になると思います。山場はスコットランド戦ですね。ただ中3日のスコットランドに対して日本は日が空くので、コンディションを整えられると思います。

―野澤さんにとって、ラグビーの魅力とは?

ラグビーそのものと、それに付随する人的なものです。

ラグビーは「人間」が出るスポーツです。痛みと恐怖の中で、逃げてしまう人もいれば体を張れる人もいます。そこが面白いです。

ほかにも、ラグビーには15人が一つの生き物のように動く瞬間があるんです。その瞬間が面白いですね。

もう一つは人とのつながりです。ラグビーを通じて人生の基盤ができたと思っています。社会に出たとき、ラグビーをやっていたことで仲良くなれることがあります。こうしたつながりが人生を豊かにしてくれると思います。

―今後のラグビーについて

ラグビーの価値を上げるとともに、ラグビー自体をよくしていきたいと思っています。ラグビーの面白さをプレーしている人に感じてほしいです。そして世界で戦うタフな若者を育てていきたいです。具体的にいうとタレントの発掘ですね。埋もれているが才能ある若者を、どうやって表舞台にひきあげていくか。彼らに「自分も日本代表になれるんだ」という可能性を知ってもらいたいです。

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―慶應の学生に向けて一言

たくさん海外に行くといいと思います。社会人になると長期間の休みが取りにくいし、春休みもないのでなかなか海外に行く機会がありません。世界中を歩いて海外を感じてほしいです。あとは体育会の試合に足を運ぶことですかね。応援に行った先でできるつながりもあると思うので、ラグビーを起点にネットワークができたらいいなと思います。僕がそうであったように、ぜひラグビーをツールにして人生を豊かにしてほしいです。

(聞き手=高井日菜子)

野澤武史(のざわ・たけし)

山川出版社取締役。1979年東京都出身(39歳)。日本ラグビーフットボール協会リソースコーチとして若手選手の強化・発掘も手がける。テレビ解説でもお馴染み。