平成7年3月20日午前8時、都心を走る地下鉄内。突如発生した宗教テロによって13人の命が奪われ、6000人以上が重軽傷を負った。逃げ場のない電車内でばらまかれたのは猛毒ガス・サリン――オウム真理教による「地下鉄サリン事件」である。

オウム真理教の教祖である麻原彰晃(本名・松本智津夫)および犯行に及んだ信者たちは、平成30年に死刑に処された。平成初期に台頭し、悪夢のような事件を起こし、平成末期に死刑執行。平成をまたがるようにして刻まれた悪しき歴史を、「平成」という世とのかかわりから振り返る。

 

実行犯の一人、井上死刑囚の心理鑑定に携わった立正大の西田公昭教授は、「カルトの流行には必ず世相がかかわっている」と話す。オウム真理教が台頭したのは日本がバブルに浮かれていたころだ。人々が抱いた「金では幸せになれない」「心の豊かさが重要だ」という思いは、一部の人間をオウム真理教などのカルトへ向かわせた。こうした平成初期の世相がもたらしたカルト流行は、地下鉄サリン事件へとつながった。

だからこそ、「平成の事件は平成のうちに終わらせるべく死刑が執行されたのだ」という見方をする人もいる。しかしほかにも、同年1月にサリン事件関連の裁判が終わったからだとか、恩赦を避けるためだとか、いろいろな素因があったといわれている。これらが複合的に重なり合った結果この時期の死刑執行だったのかもしれない。いずれにせよ、実行犯らが刑に処され、事件は平成のうちに終結した。

しかし、西田教授によると、カルトはその発生のメカニズムゆえになくなることはないという。カルトは人々の悩みにつけこみ、その受け皿になる。だから、「私たち全員を幸せにしてくれるもの」を提供してくれる社会が実現していない以上、それを提供すると言って近寄ってくる団体は必ず現れる。さらに西田教授は、カルト側はオウム真理教の歴史を学ぶことができるので、これまでよりうまく立ち回るだろうと推測する。

 

しかし、過去から学ぶことができるのは私たちも同じである。西田教授は、「いろんな人が知識を広げれば、カルトもそう簡単に近寄っては来られない」と話す。知識は、武器である。次の元号で――未来で、同じような悪夢が繰り返されないように。私たちはこうして振り返り、学び、対抗していかなければならない。

 

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