新語・流行語大賞トップテン入りを筆頭に、昨年多くの反響を呼んだドラマ「おっさんずラブ」(テレビ朝日)。映画化も決定し、注目の作品だ。

ドラマは、まったくモテない春田創一(田中圭)が、突然会社の上司・黒澤武蔵(吉田鋼太郎)と後輩・牧凌太(林遣都)に告白され、2人のピュアな恋心に次第に心惹かれていくあらすじだ。

この作品には、同性が同性を好きであることに対して違和感を持つ人物は登場しない。脚本を手掛けた徳尾浩司さんは、「こういう世界も近い将来あるといいな、あってもおかしくないな、という思いがあった。押し付けがましくない程度に希望が見える設定にこだわった」と語る。

この思い切った舞台設定に、世間の評価がどちらに転ぶか、初めは不安だったという。「結果、みなさんに温かく受け入れてもらえた」。その言葉通り、同ドラマは深夜枠ということもあり、視聴率こそ高くなかったものの、Twitterで圧倒的な存在感を示した。「ネットがなかったら失敗して終わっていたかもしれない。話題にしてくれて救われた」

「おっさんずラブ」が注目された背景には、話題性のある設定の他に、役者や監督の技量の高さがあるという。「脚本を書く」とは、頭の中で描かれるお芝居の動画を、文字にしていく作業。脚本家の想像する時間の流れ方やニュアンスと、スタッフが演出し、役者が演技してでき上がった映像とのずれは少なからず生じる。しかし、「想像より良くなることはあるが、悪くなることはない」と徳尾さんは話す。

第5話で、春田に想いを寄せる幼馴染の荒井ちず(内田理央)に、春田が牧への想いを打ち明けるシーンがある。「春田も(牧のこと)好きなの?」という台詞に続く、春田の台詞は「まあ……うん」。「僕の書いた脚本には『笑う』というト書きすらなくて。でもでき上がった映像では春田はすごく優しく微笑んでいた。その表情は、ちずの切ない気持ちを上手く表していて、役者さんってすごいなと思った」

「今回の現場は、シーンの最後の台詞が終わってもカメラを回していて、役者さんが始めるアドリブも撮影していた。これは、役者さんがしっかりと脚本の裏まで読んで役作りをしていないと難しいことなんです」。ドラマは、脚本家、監督をはじめとするスタッフ、役者が何度も相談を重ね、作り上げられるのだ。




徳尾さんが脚本家を目指し始めたのは高校生の頃だった。その後慶大に進み、演劇研究会に所属。少人数のサークルだったため脚本を任される機会が多く、そこで経験を積んだという。「おっさんずラブ」の貴島彩理プロデューサーに出会ったのは、演劇研究会と創像工房のメンバーで立ち上げた劇団だった。「もともと2016年に一夜限りの深夜ドラマとして、「おっさんずラブ」は企画されたんです。その時声をかけてくれたのが貴島さんで。持つべきものは後輩、人との縁ですよ」

来夏には映画の公開も控え、ますます人気を集めることが期待される「おっさんずラブ」。ブームの背景には、時代性や人との出会いという偶発的なもの、そしてそれらを味方に引き寄せる努力と実力が隠されていた。

 

(松尾美那実)