ビル・ゲイツ、ウォーレン・バフェットなどトップ経営者が絶賛する本がある。「SHOE DOG」だ。NIKEの共同創業者フィル・ナイトが創業から上場までの自身の半生を書いた自伝である。一言で言えば、ダイナミックで波瀾万丈な人生だ。それでいてストーリーテリングは読者を飽きさせない。「シュードッグとは靴の製造、販売、購入、デザインなどすべてに身を捧げる人間のことだ。靴の商売に長くかかわり懸命に身をささげ、靴以外のことは何も考えず何も話さない」
ナイトのスポーツへの情熱は計り知れない。偉大な陸上選手になることを目指したが夢半ばで挫折。しかし大学院卒業後、靴を輸入販売することを思いつく。「24歳の私には馬鹿げたアイディアがある。(中略)世界は馬鹿げたアイディアでできているのだと。書物、スポーツ、民主主義、自由独立の精神はいずれも馬鹿げたアイディアから始まったのだ。」と序章で語られる。父からの借金で日本を訪れ、「ブルーリボンという会社の社長だ」と口から出まかせを言い、オニツカタイガー(現アシックス)から輸入版権を得ることに成功する。
しかしナイトの事業展開は行き当たりばったりだ。キャッシュバランスなど一切考えず、前年の売り上げを全て投資に回してしまうのだから。常に地元銀行や日商岩井(現双日)などへの借金返済に腐心する。またライバル企業との抗争、アメリカ政府との法廷闘争などもありスリリングで破産と紙一重の人生だ。
ナイトやNIKEの優れた点はマイケル・ジョーダン、タイガー・ウッズ、ピート・サンプラスなどスポーツ界の巨人を広告塔にしてアイデンティティを高めたことだ。スティーブ・ジョブズの演説を思い出す。「史上最高のマーケティングの例はNIKEだ。彼らは靴を売る会社だが、消費者のメリットや他社の製品よりどうのなど絶対に言わない。スポーツやアスリートに敬意を払うことでただの靴屋以上のものを感じさせる。そしてそのことが、彼らが何者で何のために存在しているかを証明している」と。
最後にナイトが強調する言葉で筆を置く。「自分を信じろ。そして信念を貫け。心の中でこうと決めたことに対して信念を貫くのだ」
(好村周太郎)
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日吉図書館・1F特設コーナーにて、「SHOE DOG 靴にすべてを。」を展示中! 貸し出しもできます。