人が成長するために必要なものは何か。ありふれた問いかもしれないが、その答えは人によって異なるだろう。だが、ひとつの答えがあるとしたら、ここにある。学習塾「湘南ゼミナール」設立者で、塾員である江端秋幸さんに話を聞いた。

大学時代、友人が冗談半分で始めた塾の運営を手伝い始めたことが、設立のきっかけだった。子どもに教えることにやりがいを感じ、夢中になっていると、いつのまにか塾の規模は拡大していったという。江端さんはここまできたら後には引けないと思い、大学卒業後そのまま塾運営を続け、小さな教室で200名の生徒を抱えるほどに成長させた。

運営を始めて数年後、規模の拡大に伴い、法人化を決めた。「30代半ばから40代にかけては、文字通り常に塾のことを考え続けていた」と語る。

しかし湘南ゼミナールは当時、大手チェーン塾としては最後発。軌道に乗らない日々もあった。その要因の一つは生徒の成績伸び率の停滞だった。

法人化後、当初の目標が達成されていない事実を受け止め、江端さんは理想と現実の溝を埋めるための方法をひたすらに模索した。そこで生み出されたのがQE(クイック・エクササイズ)である。江端さんは「学校では答えを教えすぎ」だと感じ、例題を解いて解法を知る前に、まず演習を重ね自ら解法を学び取っていくスタイルを導入した。これが功を奏し、生徒の成績向上につながったという。

常に挑戦を恐れず困難を乗り越えてきた江端さん。自らの理想を実現したその成長の背景には何があるのだろうか。

成長には二つの要素が必要だと江端さんは語る。一つは「情熱」、特に若い頃は熱気と体力が他の年代より勝っている。好きなことに馬鹿がつくほど熱中すれば、おのずと「理想」は見えてくる。

だがより大切なのはもう一つの要素だという。それは「物事をありのままに見る力」だ。

「自分が苦しい時、人はなかなか現実をありのままに受け止めることができません。期待・損得・好嫌などの思惑をもって現実を歪めてしまう。しかし、現実を直視しなければ、物事の本質見えず、自分に必要なことが見えてこないのです」

成長とは何か。もしそれが、「理想」と「現実」の溝を埋めていく過程にあるとすれば、その溝を正確に計ることなしに成長に必要なステップを割り出すことはできないのだ。そのためには、「現実」を正確に捉え、受け止めることが必要だ。

人はつい自分が見たい景色を見ようとする。しかしそこに成長はないであろう。「物事をありのままに見る力」こそが、成長への第一歩なのかもしれない。

(青砥舞)